ゴーン・“チャイニーズ”ガール 2
前回までのお話はコチラ。
先週末の日曜の夜、子供らはマックスの車でなく、前妻シュエとタクシーで帰って来た。
“なぜタクシーで帰って来たのか”
どうせシュエとマックスが喧嘩したんだろうと大方予想はつくが、どうして2人が喧嘩したのか、どんな喧嘩だったのか、興味津々な野次馬根性丸出しの私とビクトルは、華麗なコンビプレーで子供らに話をさせるきっかけを作った。
きっかけを突破した子供らは、争うように週末の出来事を話し始めた。―――
ビクトルの前妻シュエの現夫、マックスは、金曜日、まだ日が高いと言うのにビールを浴びるほど飲んで、いつになく酔っぱらったらしい。
どうやら、マックスの仕事の顧客の1人が、突然支払いを渋って、マックスはただ働きになってしまったそうだ。
それでムシャクシャして、酒を煽ったらしい。
それを見たシュエが激怒。
ここだけの話だが、マックスは以前、酒に酔ってトイレと間違え、家の中の物置部屋におしっこをしたことがあるらしい。
酔って就寝後、ベッドに盛大にお漏らししたこともあるらしい。
いつのことだったか、子供らが爆笑しながら教えてくれたことがある。
昼間から酔い潰れている(しかも子供らの前で)ことのみならず、また家の中のどこかにおしっこでもされたらたまらないと、シュエは怒ったらしい。
ここまでは、妻の立場として、酔い潰れる夫をたしなめるシュエの気持ちは、私も大いに理解できる。
でも彼女の怒りはこれだけでは済まなかった。
そしてこれ以降は、私の理解度を遥かに超える出来事だった。
次に彼女は、マックスが顧客から報酬を取り立てられなかったことを責め、
「これだから私みたいにちゃんとした職に就けないんだ!」と罵った。
彼女は、マックスのプライドを木端微塵に打ち砕いた。
ここでマックスがブチ切れ、盛大な喧嘩が始まった。
怒りが頂点を突き抜けると、シュエがコントロール不能になることは、私はビクトルからよく聞いていた。
誰もシュエを止められなくなるし、彼女自身も自身でコントロールできなくなる。
この時も、シュエの怒りは頂点を超え、暴走モードに突入。
「死んでやる!!!」と叫んでキッチンに走り、液体の洗剤を手に取ってマックスの前に戻ってきた。
そして彼の目の前で、その液体洗剤を飲もうとした!!
アーロンはこの時、シュエの喉が1度ゴクリと動いたのを見たと言っているが、ビクトルが「でもその直後、お前のママは咳込んだり、オエッとえずいたりしたか?」と聞いたら、「それはしてない」と言うので、おそらく、シュエは飲んだ振りをしたのだろう。
すかさずマックスが、シュエが持つ液体洗剤のボトルをバチコーン!と払いのけた。
殴ったね!オヤジにもぶたれたことないのにー!!
…と言ったかどうかは別として、
殴られた!!…と勘違いしたシュエは、奇声を上げてマックスに飛び掛かり、彼の頬を平手で殴り、首を爪で思いっきり引っ掻いた。
マックスの首には、ものすごいミミズ腫れができていたらしい。
喧嘩はここで終了。
マックスは、無言で実家に帰る身支度をし始めた。
去り際に、彼はシュエに「お前に渡してた実家の合鍵を返してくれ」と言い、そんなことでへこたれたりしないシュエは、投げ捨てるように合鍵を返した。
そして、「アンタこそこの家の鍵、返しなさいよ!」と言った。
マックスは無言で鍵を渡し、フアン(シュエとマックスの子)を連れて実家に帰った。
その後、この週末の間、マックスとフアンがシュエの家に帰って来ることはなかった。
日曜の夜が来て、シュエは自宅近くの大通りでタクシーを拾い、アーロンとエクトルを我が家まで送って来た。
これが、子供らから聞いた、シュエ家の週末の出来事だった。
子供らがすべてを話し終えた後、上の子アーロンが言った。
「もうママの家には行きたくないよ。来月のパパの誕生日、たしか日曜日でしょう?その週末は、パパと梅子と過ごして、みんなでパパの誕生日をお祝いしたい。パパたちと過ごしていいか、来週の週末、ママに聞いてもいい?」
ビクトルは「僕らはかまわないけど、ママが何て言うか…だなぁ」と顔を曇らせていた。
子供らが寝静まってから、ビクトルと私はこの出来事をもう一度話した。
そしてもう一度、2人で絶句した。
夫婦2人だけの時に喧嘩してくれるのは、大いにかまわない。
でも、子供の前でそんな修羅場、ヤバいでしょうよ。
さらに深刻なのは、子供らの前でシュエが液体洗剤を飲んで自殺する振りをしたこと。
彼女の迫真の演技のおかげで、下の子エクトルは、家にある物で簡単に人が死ねる方法をまた1つ知ってしまった。
いつか、エクトルが何かに怒ってブチ切れて、母親を真似て液体洗剤を持ち出し、飲もうとしたら…
もし本当に飲んでしまったら…
そう考えるだけでも、心底ゾッとする。
ビクトルが静かに話し出した。
「シュエとマックスが離婚するのは、マックスの辛抱の限界が来た時だ…。
もしマックスに限界が来て、彼らが離婚することになったら、僕は弁護士とマックスにコンタクトを取ろうと思う。
弁護士には、シュエの精神異常を話して、僕がアーロンとエクトルの親権を100%持ちたいと相談する。
マックスには、シュエの精神異常を証言してもらえないか話してみたい。
僕はもうとっくの昔から知っていたことだけど、とにかく、シュエは異常だ。」
もう何千回、何万回言ったかわからないけど、うん、彼女は異常だ。
ちなみに、後にビクトルの誕生日を調べると、誕生日は日曜ではなかった…。
普通に平日ど真ん中の水曜日だった…。
アーロン…、お前…、さては今月のカレンダー見たな…?
■本記事シリーズのタイトルは、映画「ゴーン・ガール」(2014年公開、アメリカ)をモジって使わせていただきました。
本シリーズの内容と映画は、一切関係ありません。