I'm Yours 2
前回のお話は、コチラ。
himatsubushi-hitsumabushi.hatenablog.com
街コンに行くか行かないか…
ビクトルのことやこれからの自分のことについて、史上最悪な絶望の中で大きな決断を次々に迫られていた去年に比べれば、街コンなんぞ、心の底からどうでもいい話である。
それでもグダグダと迷っていたある日、超絶ポジティブ男子ルイスから連絡が来た。
「やぁ梅子!元気にしてる?最近どう?なにかきみの人生を照らすことはあったかい?」
私は時々、彼の嗅覚に驚く。
いや、彼に限らず、私の周りの人たちは、日本にいる友人たちも含めて皆、必ずこうして絶妙なタイミングで連絡をくれる。
これはビクトルがいなくなった去年から、今でも続いているミラクル現象だ。
「おもしろそうじゃないか!もちろん行くんだよな?」
私がルイスに街コンの話をすると、電話越しでも前のめりになっているのがわかるぐらいの勢いで、彼はそう言った。
「おもしろそうなんだけど、でもまだ迷ってて…。」と、私は悩みの丈を話した。
「私は、たぶん、自分の中にたった1つしかない最上級の愛を、ビクトルに使った。10年もたたないうちにあっけなく終わってしまったけどね。だから、ビクトルを愛したように誰かを愛することはできないと思うんだ。」
つたないスペイン語の長い長いデモデモダッテを辛抱強く聞き終えたルイスが言った。
「梅子の気持ちはまぁまぁわかった。よし。これからスペイン流オトナの人生の楽しみ方を伝授してしんぜよう!」
なんじゃそりゃと思った。
だけど、男性の、しかもスペイン人男性からの意見を聞けることは貴重ではある。
早速伝授していただくことにした。
「スペインではね、男と女が一夜のアバンチュールを楽しむのも、人生の楽しみ方としてアリなんだ。一緒に映画を観に行ったり、ディナーを楽しむことと同じようにね。1夜限りの関係を持ったからと言って、後悔したり自分を蔑むことなんてしない。周りからとやかく言われることもない。」
…なるほど。
「でもルールがある。」
ルイスが続ける。
「そこに感情は持ち込んではいけない。愛し合っているわけじゃないんだから、そこは勘違いしてはダメだ。もういい大人なんだから、割り切るってわかるよな?」
は、はい…。
「もう1つ。」
なんでしょうか…?
「すべては梅子が決めること。イヤならイヤとハッキリ言っていい。普通のスペイン人なら、ちゃんときみの意見を尊重する。尊重しないヤツだったら、それはクソ野郎だ。梅子はとにかく、我慢したり、相手に流されてはダメだ。常に自分を最優先で考えろ。」
承知しました…。
「それから、最後に。」と、ルイスが言った。
え、まだある?
「僕には今、奥さんがいて子供たちがいるだろう?こんなこと考えたくないけど、もし、僕の奥さんが僕より先に死んでしまったら、僕も初めは梅子のように落ち込んで悲しむ。でもきっと梅子よりももっと早いうちに立ち直って、新しい人生のページを書き始める。僕の新しい人生では、もしかしたら女性たちとそういうアバンチュールを楽しむこともあるかもしれない。でもそれだけだ。奥さんに罪悪感は持たない。だってそこには愛はないから。」
こういうふうにぱっきりと物事を割り切ったり、「自分はこうする!」と迷いもなく言いきれるってすごいな…と、スペインの人々と話しているとよく圧倒される。
間違えていたり、失敗したとしても、「あら、そうだったの?」とケロッとして、すぐに切り替えられるのも、今の私には、いや、もっと前から、一生真似できないなと、いつも思う。
ルイスはさらに続けた。
「僕も梅子と同じだよ。他の人を奥さんと同じように愛することはない。だって、僕もいちばん特別な愛情は、もう奥さんに使ってしまっているからね。」
私のデモデモダッテは、きっと全否定されると思っていた。
だから、最後にルイスがそう言って共感してくれたのは、ちょっと驚いた。
街コン、行ってみるか!
たとえ最悪の経験となったとしても、それは人生の中のたった数時間のこと。
最高に楽しかったとしても、最悪だったとしても、どっちに転んでも話題のネタにはなる。笑。
私は漬物石みたいなこの重い腰をようやく上げて、街コンサイトの申し込みをクリックした。
申し込みを終えて、フェルナンドに「申し込んだよ」とwhatsappを送った。
「やっと行く気になったか。街コンが終わったら、一緒に夕飯を食べよう。反省会するぞ。」と、フェルナンドから返事が来た。
私は「いいよ!」と返事を返した。
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街コンの前日、私は美容室に行って白髪を染めた。
街コンのために意気込んだわけでは決してない。笑。
どう言っても言い訳がましくなるが、美容室を予約した後日に、たまたまフェルナンドから街コンの話を聞かされたのだ。
ただ、ちょうど前日に髪を綺麗にしてもらえるのは、街コンに行くなら絶好のタイミングだなとは正直ほくそ笑んだ。
「せめて僕たちのグループとディナーに行く時だけでもいいから、たまにはお化粧してキレイになった梅子を見せてよ。」と、昔ビクトルによく苦笑いされていた。
こんな時にばっかり気合入れてごめんね、とビクトルに謝りながら、当日は結構念入りにお化粧もしてみた。
服装はどうしようか。
女子力皆無で暮らしていたもんで、笑っちゃうほど女性らしい服も靴もバッグも持っていない。
いつものスニーカーに、いつものヨレヨレの肩掛けバッグではさすがにダメだろう。
何年か前にビクトルに買ってもらったサンダルは、盛大に靴擦れしたっきり、1度も履いていなかった。
でも、なんとかこれを履いて行こう。
これが唯一女性らしいと言える私の一張羅だ。
靴擦れするレザー部分をサンドペーパーでゴシゴシしてみたら、違和感がなくなった。
洋服は、東京に住んでいた独身時代の服を引っぱり出した。
当時は調子こいて伊勢丹なんぞで買っていた服だから、スペインで買っていたプチプラTシャツよりは断然マシだ。
よし!いける!
会場となっているホテルの前でタクシーから降りると、フェルナンドがすでに来ていた。
フェルナンドは、私を頭のてっぺんから足元まで眺めると、「おぉ~!」と感嘆の声を上げて目を丸くした。
そういえば、この1年間、フェルナンドに会う時はいつもスッピンでTシャツにGパン、スニーカー、髪は白髪だらけのボッサボサだったから、こんなに洒落込んだ姿を見せるのは初めてと言っていいほどだった。
「なんだよ、今日はものすごく綺麗じゃないか!」
「はいはい。ありがとうございます。お世辞はいいよ。」
「いやいやお世辞なんかじゃないよ!」
「一応今日は殿方に会うイベントだからね。気合いれないとね。」
私は笑ってそう言った。
フェルナンドと笑いながら話していると、向こうの通りからローサがやって来るのが見えた。
ローサは胸元が深く開いたエレガントな黒のワンピースに、黒のヒールのサンダル。
アクセサリーはシルバーで統一させていた。
私の寄せ集めの、サンドペーパーでサンダル削って来るような、やっつけファッションとは大違い。
これからは姐さんと呼ばせていただきたい…。
そう心の中で呟かずにはいられないほど、ローサの気合の入れ様はすごかった。
「おぉ…」と、フェルナンドが、私の時とはまた別の感嘆の声を漏らした。
3人でホテルの会場に入ると、すでに参加者が全員集まっていた。
参加者は、男性陣がフェルナンドを入れて6人、女性陣はローサと私を含めて7人だった。
イベント終了後に主催者と話せる機会があったのだが、やはりスペインでこのようなイベントは相当めずらしく、起業したばかりということもあって、まだ認知度が低くて参加者が集まらないと言っていた。
この街コンイベントは2日に渡って行われていて、年齢ごとにグループが分かれていた。
私たちが参加したのは2日目のグループで、後からわかったが、このグループの最年少は私だった。
外国人は私だけかとハラハラしていたが、そんなことはなく、他にも南米出身者やイギリス出身の人がいた。
私以外は、女性も男性も皆、離婚経験者で子持ちだった。
会場に入ると、主催者から名前と番号が書かれたシールを渡され、胸元に貼るよう指示された。
飲み物を注文してくれと言われたので、私はコカ・コーラを注文した。
ローサはミネラルウォーターを、フェルナンドは白ワインを注文していた。
しまった…、こんな場でコカ・コーラは失敗したか…と思った。
このイベントのルールは、女性陣は自分の番号札が置かれているテーブルに座り、そこを男性陣が順繰り回って10分程度の会話をするというもの。
テーブルには紙とペンが置かれているので、気に入った人の番号をメモしておき、イベント終了後帰宅したら、メモしておいた番号を主催者にメールする。
めでたくマッチングが成功していたら、後日主催者からお相手の電話番号を伝えるメールが届くという流れだ。
「では、女性の皆さん、席についてください。トークタイムを始めましょう!」
主催者が声をかけて、私たちは早速席についた。
個人的には、この主催者(スペイン在住のフランス人)がいちばんイケメンだと思った。
後でそれをローサとフェルナンドに話したら、「あなたの番号は何番ですか?メールしますって言えばよかったのに!」と、2人に大笑いされた。
この話、もう少し続きます…。次回はまた後日。
■本記事シリーズのタイトルは、Jason Mraz 3rdアルバム「We Sing. We Dance. We Steal Things.」(2006年発売)の収録曲「I’m Yours」をモジることなくそのまんま使わせていただきました。
本シリーズの内容と曲は、一切関係ありません。