梅子のスペイン暇つぶし劇場

毒を吐きますので、ご気分の優れない方はご来場をご遠慮ください。

隣人は5階に潜む

ウチのマンションは、通りに沿っていびつなコの字型のマンションで、エントランスが4つある。

1つのエントランスごとに約16世帯が住んでいる。

 

ウチは、1階の1部屋が歯科クリニックなので、たぶん15世帯が住んでいる…と思う。

 

マンション自体は、おそらく築20年弱で、スペインでは比較的新しい建物の部類に入る。
築50年、60年なんていうマンションはざらにある。

 

ここに住む住人の多くは、新築時から住んでいるような方々ばかりで、大概が顔見知りだ。

双方の家を行き来する…というほど親しい近所付き合いはなく、皆、浅―いお付き合いだが、マンション近くの道端や、エントランスで会った時にはもちろんお互い挨拶するし、エレベーターホールで出くわすと、ちょっとした井戸端会議が始まることもある。
「一緒に乗りましょうよ」と、エレベーターを相乗りしたりもする。
皆、親切で良い人だ。

 

ただ、

一家族を除いては…。

 

その家族は、5階に住んでいる。
(ちなみに我が家は3階。)

 

この家族について少し説明しておこう。

 

家族構成は、父親、母親、息子が2人、娘が1人の5人家族。

 

父親は、唯一私にだけには毎回挨拶を返してくれるが、ビクトルや子供たちにはなぜかシカトを決め込んでいる。

母親は、もう、嫌いですオーラ全開。

息子1は、20代になったかならないかぐらいの青年。
たぶん、大学生だと思う。
以前は私たち家族に気さくに挨拶してくれたり、近所付き合いならではの軽いトークにも付き合ってくれて、この家族で唯一普通の存在だと思っていたのも束の間、彼の普通さに甘えた私たちがバカだったのか、年頃だからいろいろご多忙なのか、最近はあまりフレンドリーではなくなってしまった。

息子2は、ウチの子アーロンの1つ上ぐらいの歳。
なぜか常にキョドってる。
ウチの下の子エクトルが居合わせると、これまたなぜかエクトルに一点集中、じっと見つめる。
謎すぎる。

娘は、アーロンの1つ下ぐらいの歳でクールビューティ。
可愛い…と言うより、とにかくクールビューティ。
つぶらな瞳でクールに見つめるだけで、何も発しない。
とにかく無表情。

「アダムスファミリー」のおさげの女の子バリの無表情。

「アダムスファミリー」が最新作を作るなら、ぜひあの娘を推薦したい!

 

息子2と娘は、ウチの子らが通う学校よりもちょっとばかしウチのマンションから近く、ちょっとばかし授業料のお高い学校に通っている。

 

それと、どうやら隣りのエントランスの世帯に、祖父母が住んでいるらしい。
たまにこの家族が隣りのエントランスを出入りしているのを見かけるし、おばあちゃんらしき人が子供らと共に我らのエントランスに入ってくるのを見かける。

おばあちゃんはこの家族と一転、とても人柄が良さそうで、私たち家族が挨拶すると、笑顔で普通に挨拶を返してくれる。

 

一見すると、普通に普通の家族だ。

 

だが、我が夫ビクトルは、恐れ多くも彼らのことを「stupid family」と呼んでいる。

もちろん陰での話だけども。

ビクトルは、この家族が嫌いだ。

私も正直言うと、この家族が苦手だ。

ウチの子らも、この家族が嫌いだ。

 

なぜ、我が家は、この家族が嫌い(苦手)なのか。

 

それは、この家族が明らかに、それはもうあからさまに、我が家を嫌悪しているのがビッシビシ伝わるからだ。

 

例えばこうだ。

 

先日、ビクトルと私が外出先から帰って来ると、エントランスの外で、この家族の父親が1人佇んでいた。

それに気づいたビクトルがすかさず、「最悪だ…」とつぶやく。

 

その声に気付い…いや、遠すぎて声には気付かなかっただろうが、私たちの姿に気付いた彼が、すかさず、しかもいかにも自然を装って私たちに背中を見せ、私たちがエントランスに来るのに気付いていない振りをした。

 

私たちはそんな彼の思いと演技を尊重し、「あら、誰かしら?ウチのエントランスの前に知らない人が立っているわ」感を醸し出させ、挨拶することなく彼の背後を通り抜け、エントランスに入った。

 

こんなのは、序の口だ。

もっとすごいことがほかにもある。

 

以前、下の子エクトルと私が外出するために、2人でエレベーターに乗って階下に行くと、この家族の母親が1人、エレベーターを待っていた。

 

階下に着いて、エレベーターの扉を開け、エクトルが先に降りたのだが、その際、彼はこのご婦人に気が付いて、「こんにちは」と挨拶をした。

しかし婦人は、ギョッとした顔でエクトルを見つめたまま、無視。

続いて私がエレベーターを降り、エクトルに続いて「こんにちは」と笑顔で挨拶したが、これも無視。

「早く降りやがれイエローモンキーめが!」とでも言わんばかりの形相で、私の衣服やバッグに触れないようにヒラリと身をかわし、素早くエレベーターに乗り込んで、行ってしまった。

「なにあの人!僕、こんにちはって言ったのに!」と、怒り出すエクトルに「シーッ!聞こえるから!でもびっくりしたね~。」となだめながら、私たちは出かけた。

 

去年、私が語学学校に通っている頃は、もっと最悪だった。

 

語学学校に行くため家を出る時間帯が、なんか知らんけど、この家族がよりにもよってご家族御一行様でどこからか帰って来る時間帯とよくぶつかり、私がエントランスの扉を開ける時に、ちょうど御一行が外から扉を開けようとしている…ということが度々あった。

 

そんな時は、タイミングによりけりだが、時々この家族の父親が先に外側から扉を開けて、私が出て行くのを家族全員で待っていたり、時々私が先に内側から扉を開けて、先に外へ出させてもらっていた。
(“出させてもらっていた”と言っても、私が先に扉を開けたとしても、家族が先に入って来ることはなく、いつも私が先に外へ出なければならなかった。)

 

私はお得意のビッグスマイルで「こんにちは~。あ、ありがとうございますぅ~!」と言って、いつも外へ出るのだが、内心は心臓バックバクだ。

だって怖いんだもの!!

子供らは全員、何も言わないし、ただただ無表情で私を見つめながら、私が去るのを待っている。

一方で、父親はまだ少しマシだ。

時々ボソッと「こんにちは」と言ってくれたり、言ってくれなかったり。

もちろんノースマイルだが。

でも、極めつけに恐怖なのが母親だ。

毎回、私の姿を見つけるなり、みるみるうちに「あ、変なのが来た。コイツまだここに住んでんの?」っていうような鬼の形相に変わり、つま先から頭のてっぺんまで舐めるように見る。

毎回舐めるように見る!見る!見る!

 

もうマジで怖すぎる。

今んとこ夢には出てこないけど、近いうち出て来るぜ絶対!ってぐらい怖すぎる。

こんな恐怖、中学時代に濡れ衣着せられて超怖い先輩に呼び出された時以来だ。

 

超怖い先輩が、私を睨みつけて舐めるように見ていた時、私はもうチビりそうなぐらい膝もガクガクだったけど、勇気を振り絞って聞いた。

「誰が私に濡れ衣を着せたんですか?誰ですか?」と。

 

だから今回も、勇気を振り絞ってこの家族に聞いてみたい。

「どうしてウチの家族を嫌うの?」と。

 

だいたいね、予想はつくんだ。

この一家が我が家を嫌う理由。

 

それはたぶん、私がアジア人で、子供らがアジア人のミックスだから。

このマンションには、私以外、外国人は住んでいない。

皆、スペイン人だ。

しかも、私の前に、この家には中国人が住んでいた。

中国人妻がいなくなったと思ったら、今度は日本人が妻としてやって来た。

傍から見たら、「なんだ、この家は!」と思うだろう。

しかも、外国人と言っても、欧米人ではない。

よりによってアジア人だ。

 

私はまだ、大した目には遭っていないけれど、この国でも差別はある。

日本人や韓国人など、一見区別がつきにくい人種は、とりあえず「中国人」と呼ばれる。

今でこそ、南米系の移民が多くなってきたけれど、地域によっては移民に対する風当たりが強いし、我々移民の立場は弱い。

 

「今度、あの家族に会ったら、どうして我が家を嫌うの?って聞いてみたい」とビクトルに話すと、「そんなこと絶対にするな」と言う。

だから、もしどうしても聞きたいなら、私が1人の時に聞いてみるしかない。

怖いけど。

 

でも、私が彼らに質問できたとしても、彼らが言うこと(スペイン語)を聞き取って、理解できるかどうか。

それが問題だなー。

 

 

■本記事のタイトルは、テレビ映画「隣人は闇に潜む」(2007年公開、アメリカ)をモジって使わせていただきました。
記事の内容と映画は、一切関係ありません。