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梅子のスペイン暇つぶし劇場

毒を吐きますので、ご気分の優れない方はご来場をご遠慮ください。

忘れられる子供たち…のユニフォーム 前編

もう4月になってしまったが、今年もおかげさまで、我が街の最大イベントであるお祭りが、凄まじい爆竹の騒音と共に、先月終わった。

連日の外の爆音に、すっかり縮み上がってしまった我が家の猫、猫の助は、祭りの間中は決してベランダに出ることはなく、祭りが終わった今、ようやくベランダに顔を出すまでにはなったのだが、それでもまだまだ、だいぶビビりまくりのへっぴり腰で、通りを走る車がクラクションでも鳴らそうものなら、猫なのに脱兎のごとく家の中へ走り去る。

ようやくベランダに出て、猫草を食べるのに夢中になっている間、窓を閉めようものなら、一目散に窓の傍に駆け寄って来て、「開けてください、ご主人様ぁ~!」とばかりに、悲愴な鳴き声を上げる。

 

今年の我が街のお祭りは、最終日がちょうど日曜日で、それに向けて本格的なムードになるのが月曜日からだった。

それに合わせて、子供たちの学校は、水・木・金の3日間がお祭りの休暇になった。

ちょうどその頃、彼らの母親シュエが、中国出張から帰って来た。

「火曜日にスペイン到着。」と聞かされていたのだが、どうやら日程が少し早まったようで、「月曜日に到着します。」と、シュエから後で連絡が入った。

ビクトルとシュエの子供の養育権の契約では、このお祭り期間は、最終日を除いてすべての子供たちの休暇日は、シュエが親権を持つことになっているので、子供たちは、火曜日に学校が終わった後、そのままの足でシュエ家族の元へ行くことになった。

ちなみに、このお祭りの最終日はいつも祝日で、また、スペインではこの日は父の日でもある。

だから、毎年最終日は、子供たちは父親ビクトルと過ごすことになっているのだ。

 

冬休みの時も、夏休みの時もそうなのだが、我が家の子供たちは、少しでも長い期間をシュエの家で過ごすと、毎回必ず何かしら忘れ物をして帰って来る。

シュエや夫のマックスに緊張感がない、と言うのもあるのだけれど、長男アーロンはもう中学生なのだから、最低でも自分の物ぐらい、できることなら弟エクトルの物の世話もしてほしいぐらいの歳なのに、そこはやっぱり男の子だからなのか、彼の性格がズボラすぎるのか、はたまた私たちの育て方が悪いのか…、とにかく、子供たちにも「自分の物(特に学校関係の物)は忘れずに持って帰って来る!」という自覚がなくて、帰って来る度に毎回、ほぼ毎回、私とビクトルは溜め息をつかされる。

それに加えて、子供たちから話を聞く限り、シュエは今でも絶賛“自称・産後うつ”真っ只中。

「そんなのは鬱じゃないよ。本当に鬱だったら、飛行機に乗って海外になんか行けるわけがない。家からだって出られなくなるんだから。」と、ビクトルの友人が大苦笑していたが、本人がそう言い張るのだから、どうしようもなければ、頼りにもならない。

だから、子供たちがシュエの家に行く日が近づくにつれ、ビクトルは、「お前たちのママはハッキリ言って当てにならない。だから、その代わりにお前たちがしっかりしないとダメなんだぞ。制服、靴、ジャンパー、バックパック、この家に帰って来る日は、自分たちで忘れ物がないかちゃんと確認して、自分の物に責任を持って、忘れないで持って帰って来るんだぞ。」と口を酸っぱくして、毎日子供たちに言い聞かせていた。

 

それでもダメだった。

お祭りの休暇の最終日、子供たちが我が家に帰って来ると、アーロンもエクトルも、ジャンパーを忘れて帰って来た。

アーロンに至っては、酷かった。

シュエの家に行く日、ジャンパーを着て行ったことすら忘れていて、「え?この家に置いてったはずだけど?」と、寝言を宣った。

ジャンパーには学校のロゴが入っていて、学校指定のもの。

ちょうどお祭りの頃は、日中は真夏日の気温になるほどのポカポカ陽気だったが、それでもまだまだ朝晩は身震いするほど寒くて、特に登校時間はジャンパーがないと、さすがに厳しい。

「明日から1週間、どうすんのよ?!パーカーでも着て行くしかないじゃんかー!」と私がブーをたれると、なぜか子供たちは、頑なにパーカーを着て学校に行くのは拒んだ。

「色が青っぽいんだからいいじゃん?」と言っても(学校指定のロゴ入りでなくとも、紺や黒系の地味なジャンパーなら、一応OKなのだ。ちなみに子供たちが我が家で持っている私服のコートの類は、紺色でも黒色でもなく、日本にいる私の姉が子供たちにと買ってくれた、ユニクロの厚手のパーカーが、唯一青系の物だ。)、「そんなに明るい青だと、きっと先生に叱られる。」と、子供たちは譲らなかった。

私と子供たちのやり取りを聞いて、業を煮やしたビクトルが、「とにかく!あれほど忘れるなと言ったのに、お前たちはこのザマだ!そんなにパーカーを着たくないなら、今週1週間はジャンパーなしで学校に行け!その代わり、お前たちが風邪を引いても、それもお前たちの責任だ!パパも梅子も知らんからな!」と怒鳴るだけ怒鳴って、書斎へ消えた。

 

さらに、この日、忘れたのはジャンパーだけではなかった。

火曜日、子供たちが学校から直でシュエ家族の元へ行った日、エクトルは体育がある日だったので、着ていた制服は、これまた学校指定のジャージだったのだが、上着とズボンは持って帰って来たものの、中に着ていた長袖の体操着を忘れてきた。

 

実は、子供たちが我が家へ帰って来る前日、シュエからビクトルにメールが来ていた。

「果たしてお宅では、日頃から子供たちの制服をちゃんと洗濯していらっしゃるのか、洗濯しているのなら、ちゃんと洗剤はお使いになられているのか、どんな洗剤を使われているのか甚だ疑問ですが、エクトルのジャージがものすごく臭かったので、すべて洗濯させていただきました。」と、書かれていた。

そして、フローラルの素晴らしい香りに包まれて返されてきたエクトルのジャージが入った袋には、体操着が入っていなかった。

これにはビクトルも私も、苦笑するほかなかったが、それでもビクトルは、「だからお前たちのママは産後うつなんだろ?だから当てにするな、自分の物は自分で責任持って確認しろってあれほど言ってもダメか?わからないか?」と、エクトルに嘆いた。

我が家にはまだ、エクトルの長袖の体操着はもう1枚だけあったけれど、エクトルは月曜日と水曜日にフットサルの練習があるので、月曜日から3日間、ジャージで学校に行かなければならない。

やむを得ず、中、火曜日だけは半袖の体操着を着せることにした。

この週、天気が良かったのが、唯一の救いだった。

 

かくして、木曜日。

翌日学校が終わったら、子供たちはまたシュエ家族の元へ行く。

私とビクトルは、今週末こそは何も忘れてくれるなと、子供たちに再び念を押した。

 

そんな中エクトルが、「土曜日に、よその学校とフットサルの試合があるんだけど、体操着が必要なんだ…。」と言い出した。

「先週ママの家に長袖忘れてきたんだから、それ使えるじゃん。ウチからは持って行く必要ないでしょ?」と私が言うと、エクトルは我が家から持って行きたいとゴネ始めた。

エクトルの言い分はこうだった。

「ママの家にあの長袖の体操着が本当にあるのかわからない。もしなかったら、試合に行くことができない。だから念のために、ウチからも1枚持って行きたい。持って行くとしたら、長袖じゃなくて、半袖がいい。」

そう聞いて、すぐにピンときた。

コヤツ、ママの家に体操着があるかないか云々は言い訳で、半袖の体操着を着たいっていうのが真の目的だな?と。

 

天気が良ければ、日中、スポーツをするなら半袖でもいいかもしれない。

だけど、ネットで天気予報を確認すると、運が悪いことに週末は天気が崩れるらしい。

エクトルは汗っかきだから、多少寒くても半袖でいいかもしれないが、風邪も引きやすい。

もし私がその試合に同行するのであれば、タオルに着替え、飲み物に上着、下手したら替えの下着まで、「旅行にでも行くのか?!」ぐらいにカバンをパンパンにして行くだろう。

でも、試合は土曜日。

同行するのは、シュエとマックスだ。

彼らはとにかく、子供たちに風邪を引かせる天才だ。

エクトルのためにタオルの1枚でも持って行ってくれたら、私は彼らに拍手を送ろう。

だから、土曜日、エクトルに半袖を着せるのはダメだと思った。

理由は何もそれだけではない。

正直、私は、子供たちの“自分の物には責任を持つ”という自覚も信じていなければ、シュエとマックスなんてはなっから信じていない。

これ以上、ましてや学校の、子供たちの大事な体操着を忘れて来られては困る。

「というわけで、エクトル。悪いけど、ウチからもう1枚、しかも半袖の体操着を持って行くのは賛成できないなぁ。異論反論ございましたら、どうぞ、パパに聞いてくださいませ。」

私はエクトルに言った。

エクトルはみるみるうちにぶすくれ、父親ビクトルの元へ走り去った。

そして、ビクトルを捕まえるなり、「今度の土曜日は、半袖の体操着を着なければならない。」と宣った。

コイツ…。

エクトルの「want=〇〇したい。」は、いつも「must=〇〇しなければならない。」に変わる。

これはきっとシュエから授かったDNAの賜物だろうと、私はいつもそう思う。

しかし悲しいことに、ビクトルの判断もまた、「NO」だった。

理由はまさしく一言一句、私が思ったことと同じだった。

「だって、長袖の体操着がママの家にあるかなんて定かじゃないし、もしなかったら、僕は試合に行くことができないもん!」と言うなり、エクトルはテーブルに突っ伏してわーん!と泣きだしたが、「ママの家にあるかどうかわからないのは、自分の体操着なのに責任持って確認しなかったお前のせいだろうが。お前のママはな、“臭かったので洗濯しました”って、ご丁寧にメールをくれたんだ。ママの家にないわけないだろう!だから今、この家でもお前の体操着が1枚行方不明なんだろう?もしママの家で体操着がなくなっていたら、それはママのせいだ!試合に行けないと怒って泣きたいなら、この家じゃなくてお前のママに怒って泣け!」

ビクトルに完全に玉砕されてしまったエクトルは、すっかり戦意喪失。

もう、ぐうの音も出なかった。

 

そうして週末がやって来て、結局エクトルは、我が家からは体操着を持たずにシュエ家族の元へ行った。

日曜日に帰って来ると、「ママがねー、ズボンとは別の袋に入れて用意してたんだってー。ゴメーンって言われたよ。」と、エクトルがはにかみながら教えてくれた。

この日、子供たちは何も忘れずに帰って来た。

この週末もまた、どうやらシュエが子供たちの制服を洗濯したようだった。

「アーロンのポロシャツがね、脇の下が汗で黒くなってて、しかも汗で湿ってて、それでものすごく臭かったんだ。だからママが“何これ!真っ黒で臭ーい!!”って怒って、僕たちの制服を全部洗濯してくれたんだ。」と、エクトルが笑いをこらえながら教えてくれた。

「アンタはもう思春期で、脇毛も生えてきたし、とにかく細胞の分泌が尋常じゃないお年頃なんだから、お風呂に入ったらスポンジでボディソープをよーく泡立てて、脇の下これでもか!ってぐらいゴシゴシ洗いなさい。それが面倒なら、せめてポロシャツの下に何か下着を着なさいな。」と、再三アーロンには忠告しているのだが、我が家のMr.ズボラが、そんなことを聞くはずもなく、その結果がこれだ。

 

エクトルは笑っていたが、私は心中複雑だった。

我が家の洗濯担当は、何を隠そう、この私。

これでまた、シュエからクレームが来たら、ビクトルはまた怒り爆発だろうな…。

そう思うだけで、気が遠くなった。

はぁ~と溜め息をつきながら、キッチンで子供たちの翌日のアルムエルソ(午前中のおやつ)と水筒の準備をしていると、アーロンが入って来た。

手には、ポロシャツの上に着る、学校指定のセーターを持っていて、キッチンの奥にある洗濯機の中へ放り込んだ。

え?

「ちょっと。今週末も制服はママに洗濯してもらったんでしょう?なんでセーターを洗濯機に入れるの?」

私が聞くと、アーロンは言った。

「あ、これ?金曜日、暑いから学校で脱いでバックパックに入れっぱなしだったから、ママに洗濯してもらうの忘れたんだ。えへへ。」

続いて、エクトルもキッチンに入って来た。

手には、1週間着倒して汚れまくった、くちゃくちゃのスモックを持っていた。

「え?それもママに洗濯してもらわなかったの?」と、私が聞くと、エクトルは「えへへ。忘れてた。」と言った。

あーーーーーーーーもーーーーーーう!!!!!

すべてのやる気が失せる瞬間。

 

前回、エクトルの体操着を返し忘れたことといい、今回、アーロンのセーターといい、エクトルのスモックといい、子供たちがしっかりしてないのも問題。

でも、シュエもシュエで、日頃は子供たちの制服事情なんか、知りもしなけりゃ興味もないくせに、気まぐれで洗濯なんぞしないでほしい。

洗濯してくれたことは、素直にありがたいけれど、子供たちに持たせるのを忘れたり、もっと他に汚れ物はないのか子供たちに聞いてから洗濯するなり、贅沢言わせてもらうけど、やるならちゃんとやってほしい。

 

さて困った。

今週の洗濯する日スケジュールを組み直さねば…。

子供たちの制服スケジュールと洗濯のタイミングを、頭の中でグルグル考えていると、アーロンとエクトルが、「あのね!あのね!」と、ビクトルに話しているのが聞こえた。

「ママがね、目の手術をしたんだよ。」と、エクトルが興奮気味に話していた。

目の手術?!

病院行くなら、目なんかよりも、産後うつとやらの解決に行くのが先なんでない?

そう、心の中でツッコミを入れながら、私は3人の会話に聞き耳を立てた。

 

子供たちの話によると、金曜日、彼らがシュエの家に行くと、シュエはまるで誰かに殴られたかのような、ボッコリと腫らした両目を見せてくれたそうだ。

「ホントにね、誰かに殴られたみたいに、上下の瞼が真っ赤に腫れ上がってたんだよ。今のママの顔、本当にすごいよ。」と、アーロンが思い出し笑いをしながら言った。

「でも、なんでまた目の手術なんかしたんだ?」とビクトルが聞くと、子供たちは「視力が上がってよく見えるようにだってさ。」と、口を揃えた。

 

視力が上がるように…ということは、レーシック?

あれ?

でもちょっと待てよ?

レーシックって、たしか、処置するのは眼球だよね?

瞼じゃないよね?

なんで、レーシックやって上下の瞼が殴られたみたいに腫れ上がるわけ??

 

えーっと。

それって、“自分の目がよく見えるように”じゃなくて、“自分の目をよく見せるように”した手術なんじゃない?

いわゆる、整形ってやつなんじゃない?

 

なーるーほーどー。

子育ての煩わしさやら、不甲斐ない旦那からのストレスから逃れ、“産後うつ”の崖っぷちから逃れて、1カ月間故郷中国で、何もかもを忘れ、水を得た魚のように仕事に励み、そしてスペインに帰って来るなり整形手術ですか。

それが、彼女にとっての“産後うつ”の解決方法だったというわけですか。

ま、自分のお金でしてることなので、私ごときがとやかく言うことではないけれども、家族を顧みず、自身の満足の追求のために、こんなにも自由に生きることができるシュエが、時に羨ましくなる。

 

 

さて、本記事は、ここで終了するかと思いきや、昨日までの週末まで、話が続くことになりました。

毎回お伝えしておりますように、私もビクトルも、もはや子供たちにもシュエにも、溜め息しか出てきませんが、どうぞお付き合いください。

 

 

■本記事シリーズのタイトルは、映画「忘れられた子供たち スカベンジャー」(1995年公開、日本)をモジって使わせていただきました。
記事の内容と映画は、一切関係ありません。