梅子のスペイン暇つぶし劇場

毒を吐きますので、ご気分の優れない方はご来場をご遠慮ください。

散々な週末 1

タイトル通り、週末は、結果的に散々だった。

今、振り返ってみるだけでも、怒りで手が震えるし、特に、我が夫ビクトルの心中を察すると、胸も痛むし、胃も痛む。

 

 

日は遡って、先週木曜日の午後。

ビクトルは、しばらく会っていなかった親友から、久々の電話を受け、「梅子、悪いけどちょっと行ってくるよ。」と、親友と飲みに出かけた。

親友は私も顔見知りで、本当にしばらく何の音沙汰もなかったのを心配していたので、「どうぞどうぞ!子供たちのことは心配しないで、親友と楽しんで来て!」と、快く送り出した。

ビクトルの留守中、私は、子供たちの宿題を世話して、夕飯を食べさせ、3人でくつろいでいた。

次男エクトルが、「今日はパパのパソコンを使える日!」と言うので、途中で外から電話をかけてきたビクトルに了解をもらい、エクトルにパソコンを使わせた。

長男アーロンは、宿題も終えてしまって、暇そうにしていたので、「プレステでもやれば?私も付き合うからさ。」と、リビングで一緒にプレステをすることにした。

いつもは「どうせ負けるから!」と言って、アーロンと一緒にゲームをするのを断っていたのだが、めずらしく私もやると言ったので、アーロンはとても嬉しそうに準備を始めた。

 

2人でプレステのゲームに夢中になっていると、また電話が鳴った。

おそらくビクトルか、もしくはママ(義母)だろうと思い、アーロンに電話を取らせた。

もしママだったら、孫のアーロンと話すのをとても喜ぶからだ。

 

電話を取ったアーロンは、電話口の相手と話しをしながら、私に口パクで「ママからだ!」と教えてくれた。

電話をかけてきたのは、ママ(義母)でもビクトルでもなくて、アーロンのママ、前妻シュエだった。

一気に緊張が走った。

電話口で、アーロンは翌日金曜日のことを話しているらしかった。

「うん、うん。1時半ね。わかった。」…みたいなことを話していた。

 

アーロンが電話を切るや否や、私は「ママ、何だって?」と聞いた。

「来週から中国に出張でしばらく僕たちと会えなくなるから、明日、学校が終わったらレストランにお昼を食べに行こうってさ。1時半に迎えに行くから、給食は食べないで待ってろって。」と、アーロンが答えた。

 

呆れた。

それまでは、ビクトルには十分親友との久々の再会を楽しんで来てほしい、何時に帰って来てもかまわないと思っていたが、アーロンからこの話を聞いてからは、ビクトルに早く帰って来てほしいと願った。

間もなくして、ビクトルが帰って来た。

「シュエから電話があったよ。アーロンが応対した。」と言うと、ビクトルの表情が、みるみる内に曇り始め、「アーロン!こっちに来て説明しろ!」と、アーロンを呼んだ。

 

スペインの学校は、昼休み時間が2~3時間近くあって、その間に一旦帰宅してお昼ご飯を食べ、午後の授業が始まる頃に、また学校に戻って来る子供もいる。

(その送り迎えは、保護者がしなければならない。)

一方、家には帰らずに、学校に残って給食を食べ、その後の昼休みも学校で過ごす子供もいる。

学校の給食は、もちろん有料。

今、スペインは不景気真っ只中なので、給食費を出したくない家庭が結構ある。

アーロンとエクトルの学校でも、生徒の約半数がお昼休み時間は、帰宅するという。

また、昼休みがこのように長いので、例えば今月から始まった、エクトルのフットサルのクラブは、お昼休み時間中にクラブ活動がある。

 

我が家の子供たちは、毎日学校の給食を食べている。

我が家の収入は一応人並みだし、前妻シュエもスペインではかなり高収入のレベルに入る職業に就いているので、子供たち用の共有口座には、毎月の給食費ぐらいは十分に支払える金額が振り込まれている。

給食費は、この共有口座から自動で引き落とされている。)

 

「お前、なんでママにちゃんと説明しなかったんだ?給食を食べないとなると、事前に学校に報告しなくちゃならないんだぞ?!」

アーロンの話を一通り聞き終えたビクトルが、怒鳴った。

 

そうなのだ。

給食を食べている生徒は、何らかの理由でその日の給食が食べられない場合は、保護者が事前に学校に連絡を入れなければならないのだ。

アーロンは、「連絡帳に書いてくれれば、たぶん大丈夫だと思う…。」と、ボソボソと答えた。

「なんで俺が連絡帳に書かなきゃならないんだ?お前のママの勝手な事情だろう?」と、イライラしながらも、ビクトルは最終的に「わかったよ!連絡帳持って来い!」と言って、キッチンのテーブルにドカッと腰を下ろした。

何事かと様子を見に来たエクトルにも、連絡帳を持って来いと怒鳴った。

子供たちが連絡帳を取りに行っている間も、ビクトルはずっとイライラして、ブウブウ文句をつぶやいていた。

 

当然、私もイライラしていた。

シュエは一体何様なんだ?

どこぞの女帝か?

しばらく子供たちに会えないのは、アンタの問題。

しかも、出張に出かけるのは、来週の平日だ。

この週末の、例えば金曜日の夜に早速飛行機に乗らなければならないなら、まだ話はわかるけど、週末丸々子供たちと一緒に過ごすのに、どうしてよりによって、学校のルールまで捻じ曲げて、金曜日のお昼に、食事に行かなくちゃならない?

 

アーロンとエクトルが、いそいそと連絡帳を持って来たのだが、ここで私が口を挟んだ。

「ねぇ、これってシュエの個人的な問題でしょう?あなたじゃなくて、シュエが学校に連絡つけなきゃならない話でしょう?それをなんであなたが尻拭いするみたいに、彼女の代わりに連絡帳に書かなくちゃならないわけ?あなたは賛成してないんでしょう?それにシュエから事前に、あなたにお願いされたわけでもないんだから、あなたがお膳立てする必要ないと思うけど。」

ビクトルは一瞬、「せっかく決断したのに、今さらそれを言うか?」みたいな顔をしたが、次の瞬間には、「それもそうだ。やめた!俺は一切関知しない!」と宣言した。

アーロンとエクトルは、それぞれ連絡帳を持ったまま、きょとんとしていたが、「俺は連絡帳には何も書かない。お前たちが明日の朝、先生に直接言いなさい。先生に何か言われたら、“ママに聞いて”と言いなさい。」とビクトルが言い、お開きになった。

 

 

翌、金曜日。

午後の1時半を少し回った頃、電話が鳴った。

「アーロンとエクトルのお父さんですか?」

ビクトルが出ると、それはアーロンとエクトルの学校のセクレタリーからだった。

 

「今日、彼らは給食なしでよかったのでしょうか?“ママが迎えに来るから、給食はいらない”と、2人とも言うのですが、時間になっても誰も迎えに来ないし、子供たちを給食室へ連れて行くこともできないし、このままでは事務所を閉めることもできなくて、どうしたものかと思いまして…。」と、セクレタリーが言った。

 

ビクトルは、大きな溜め息をつきながら、「金曜日は、午後から親権が前妻の時間になるので、その件に関しては、私はまったく知りません。すみませんが、彼らの母親に連絡を取っていただけないでしょうか。」と説明した。

セクレタリーは、「あぁ、そうでしたね!失礼しました。ではお母さんの方に連絡してみます。」と言って、電話を切った。

 

電話の後、ビクトルが私に言った。

「ほらね。このザマだ。こうなることは、僕は始めから知ってたよ。」

「うん。私も知ってた。」と、私も言った。

 

「子供たちとしばらく会えなくなっちゃう!そうだ!食事に行きましょう!」

「学校の給食?学校のルール?何それ?私が子供たちと貴重な時間を過ごすことの方が、何よりも大事に決まってるじゃない?」

「私のかわいいかわいい子供たち、1時半に迎えに行きますからね(マックスが)。」

→そして時間通りに迎えに来ない。

→そして学校に迷惑をかけ、ひいては前夫も巻き込む。

 

しばらく大人しかったから、すっかり忘れてたけど、そうそう、そうだった。

これが、シュエという人間だ。

 

 

■本記事シリーズのタイトルは、映画「惨劇の週末」(2000年公開、スペイン)をモジって使わせていただきました。
本シリーズの内容と映画は、一切関係ありません。