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梅子のスペイン暇つぶし劇場

毒を吐きますので、ご気分の優れない方はご来場をご遠慮ください。

日曜の儀式 1

私の夫ビクトルと、前妻シュエとの間に生まれたアーロンとエクトルは、平日は我が家で過ごし、金曜の学校が終わってから日曜の夜までは、前妻シュエの家族と共に過ごすことになっている。

金曜日は、シュエか、もしくはシュエの現夫マックスが子供たちの学校へ直接迎えに行く。

日曜日は、だいたい夜の10時頃に、マックスの車に乗せられて、我が家へ帰って来る。

 

つい一昨日の、日曜の夜、10時を過ぎても、子供たちはなかなか帰って来なかった。

私は、洗い物を片付けたり、PCをいじったりしていたのだが、居ても立ってもいられず、いつものように、寝室へ向かった。

そして、窓から外の通りをコッソリ覗いて、彼らが帰って来るのを今か今かと待ち受けていたのだが、間もなく10時半という頃に、ようやくマックスの黒い車が我が家のマンションの前にやって来た。

 

アーロンが、車の後部座席から降りるや否や一目散に駆け出して、ゲートの呼び鈴を押しに行くのが見えた。

次に次男のエクトルが、あぁやっと着いたとばかりに車を降り、軽く伸びをしているのが見えた。

運転席からマックスが降り、助手席からシュエが降りるのが見えた。

シュエは、胸元が大きく開いた、大ぶりのノースリーブのワンピースを着ていた。

シュエとマックスは、後ろのトランクから、子供たちの学校のバックパックを降ろすと、2人を待っていたエクトルと共に、マンションのゲートへ向かって行った。

間もなく、ゲートの呼び鈴が鳴るのが聞こえた。

ビクトルが「はぁ。やっと帰って来たか。」と、大きな溜息をついて、先週の子供たちの私服が入ったバッグを持ち、子供たちを迎え入れるため、階下に降りて行った。

 

いつもならば、ビクトルがゲートに辿り着く前に、マックスは1人車に戻って来る。

それか、マックスは車から離れず、シュエと子供たちだけをマンションまで行かせる。

車内には、幼子のフアンが乗っているから、1人にさせるのは心配なのだろう。

でも、この日は違った。

車に戻って来たのは、シュエだった。

シュエは、助手席のドアの方へ行くと、車内のフアンを確認するでもなく、車に乗り込むでもなく、ドアの傍でしきりにマンションのゲートの方をうかがっていた。

そして、我が家の窓を見上げたので、私は一瞬、「バレたか!」とゾッとして、窓枠の壁の方へ体を寄せたが、シュエは私に気づいてはいないようだった。

 

シュエは、いつになく、なんだか落ち着かない様子だった。

とにかくマンションのゲートの方から目を離さずに、少しかがんで車に身を隠すような素振りを見せ始めた。

車の中はまったく気にしていなかった。

 

おそらく、ビクトルが階下に着いた頃だろうか。

車の陰に身を隠して、マンションの様子を窺っていたシュエが、突然サッと立ち上がり、クルッと背を向けて車にもたれ、マンションとは反対の方向を見始めた。

シュエのワンピースは、背中も大きくバックリと開いていて、背中のブラジャーの留め金の部分が丸見えになっていた。

この国では、暑い季節になると、こうして肩のブラ紐はおろか、背中の留め金部分やら、ひいては全身シースルー的な服で、中のブラジャー丸見え!っていうようなファッションの女性がちょくちょく出没するが、私はそこまでのファッションセンスと大胆さは持ち合わせていないので、到底真似できそうにもない。

間もなくマックスが車に戻って来ると、シュエはマックスに一言二言言葉を交わし、ようやく車に乗り込んだ。

そして車は去って行った。

 

玄関の方で音がしたので、私は急いで寝室を出て、玄関に向かった。

ビクトルと子供たちが、笑って何かを話しながら帰って来た。

私が玄関で、「おかえりなさーい。」と出迎えると、ビクトルが一瞬鋭い顔をして言った。

「今日、シュエ達、子供たちの制服を持って来るの忘れたんだ。明日の夜、マックスが届けるって。」

あぁ、なるほど。

だから今日はシュエじゃなくて、マックスがゲートでビクトルを待ってたんだ。

だからシュエは、車の傍で、ビクトルの様子を窺ってたのか。

 

でも、どうしてだろう。

いつもならば、こういうことがあっても、シュエは堂々と開き直って、ビクトルの前に現れるのに…。

いつも強気のシュエが、あんな風に車の陰に身を隠して、ビクトルに顔を合わせないようにしているのを、というか、そういう弱気なシュエを、私は初めて見た。

早くビクトルにこのことを話して、このモヤモヤした疑問を晴らしたかったけど、子供たちが寝るまでは、私はビクトルに話すことができなかった。

 

ところで、毎週日曜の夜、子供たちが帰って来る時は、ある“儀式”がある。

それは、先週の子供たちの私服と、制服の交換だ。

 

毎週金曜日、子供たちは学校が終わると、そのままシュエの家に向かうので、学校の制服で行くことになる。

そして、日曜の夜は、シュエの家の私服で帰って来るので、シュエとマックスはいつも、子供たちの制服と靴を、大きな買い物袋に入れて返してよこす。

また、私たちはいつも、前の週に子供たちが着て帰って来た、シュエの家の私服と靴を、買い物袋に入れて返さねばならない。

我が家のマンションのゲートで、子供たちを迎え入れる時、ビクトルとシュエは、いつも無言でこの買い物袋の交換をするのだ。

 

子供たちが家に帰って来ると、私はすぐさま私服からパジャマに着替えさせる。

そして、私服は畳んで、靴は小さなビニール袋に入れて、先ほどシュエからもらった買い物袋に詰める。

シュエから返してもらった子供たちの制服は、洗濯されていないので、そのまま洗濯機の中へぶち込む。

子供たちが履いて来た下着のパンツと靴下も、洗濯機へぶち込む。

下着と靴下もまた、シュエの家から着て来た物で、我が家の物ではないので、洗濯した後、金曜日の朝、子供たちに着せて学校へ行かせる。

それ以外の、私服については、我が家では洗濯をせずに、次の日曜の夜、そのまま返している。

 

なぜお互い、私服や制服は洗濯をしないで返すのか。

このルールが出来上がるまでには、(ご想像のとおり)長い闘いがあったのだ。

 

以前は、お互い洗濯をしてから返していた。

しかし、時々シュエは、子供たちの制服を生乾きの状態でシレーッと返して来たり、時には「洗濯するのを忘れた」と言って、洗濯しなかったり、洗濯はしたが、“したばっかり”の、グッチョグチョの状態で返すこともあった。

そして決まって、「たった3日間で乾くはずがない!」とか、「たった3日間いる間に、ウチが洗濯するとは限らない!」と、逆ギレで言い訳をした。

また、シュエから我が家に対するクレームも頻繁にあった。

どうしたらそういう思考回路になるのか不明だが、シュエは、平日の間、私たちがシュエ家の私服を子供たちに着せていると思って疑わなかった。

我が家では、シュエ家の私服を洗濯したら、当然のことだが、その後は絶対に子供達には着させたことなどない。

でも、やれ「ここにトマトソースのシミがある!こんな物はウチでは食べさせていない。」だとか、やれ「先週までは、こんな所に汚れなんかありませんでした!」だとか、果ては「手もみ洗いという洗い方をご存じですか?」だとか、毎回ご丁寧に、汚れ箇所のどアップの写真付きでクレームのメールが来た。

寒い季節の時、私は敢えてジャケットは洗わなかった。

裏地付きのジャケットなんて、洗濯機で洗うものじゃないと思ったからだ。

そして、当然の如く、「汚い!」と、シュエからお怒りのメールを頂戴した。

 

そういう日々が続いて、ある日、私がブチ切れた。

ビクトルでなく、私だ。

「今後、そちらで制服は洗濯しなくて結構!でもその代わり、こちらでお宅の私服も一切洗濯しません!って、シュエに言ってよ!!」と、ビクトルに頼み、メールしてもらった。

一応母親だし、「制服は月曜から学校で使う物なんだから、せめて制服ぐらいは洗濯します!」とか言ってくるかなぁと、一瞬頭をよぎったけど、そんな淡い期待は、するだけ無駄だった。

「それはグッドアイデア。ウチも毎週末洗濯しなくて済むから助かった。」と、シュエから返事が来た。

 

それ以来だ。

我が家も、シュエ家も、子供たちの制服と私服を洗濯しないで返すようになったのは。

 

だが、さすがに下着と靴下ぐらいは、洗濯して返すのが常識だろうと思って、それだけは洗濯している。

本当はイヤだけど。

そして、たとえ子供たちの下着であろうと何であろうと、あちらの家に我が家の物を送り込みたくはないので(先日の、エクトルのランニングシャツのように、返してくれないことも大いにあり得るため)、下着と靴下は、金曜日に子供たちに着せて返すようにしている。

たまに、最近までたしかアーロンが履いていたはずのパンツ(下着)を、「これは僕の!」とエクトルが履いたりするので、「お前たちよ、ママの家でパンツは共同なのかい…?」と、恐る恐る聞いてみたことがある。

恐るべきことだが、シュエの家では、下着はいくつか共同らしい…。ヒョエェェ…。

 

さて、話を戻して、日曜の夜に、シュエとマックスが子供たちの制服を忘れた件。

早速話したいところだが、前置きが長くなってしまったので、また次回…といたします。

失礼。

 

 

■本シリーズのタイトルは、映画「秘密の儀式」(1968年公開、イギリス)をモジって使わせていただきました。
記事の内容と映画は、一切関係ありません。