梅子のスペイン暇つぶし劇場

毒を吐きますので、ご気分の優れない方はご来場をご遠慮ください。

SAYONARA JAPAN

昔から、年初めや年度始めになると、ついついいろんなことの目標を立てたくなる。

それが継続するかしないかは別として。

 

今年は何事にもチャレンジできたらいいな。

漠然とこの年初めもそんな目標を立てたので、久しぶりに「今週のお題」にも挑戦だ。

でも何を書こうか…。

考えていたら、過去の日記を思い出した。

遠い遠い昔、別の某SNSサイトで私が書いた日記。

それを少し手直しして、今日はここに載せようと思う。

(手直しとはいえ、要は単なるコピペに過ぎない辺り、それは果たして許されるのだろうか?という、一抹の不安がよぎらなくもない…。)

 

この日記について少し前置きすると、当時、私はビクトルとの結婚を決意して仕事を辞め、東京での生活に終止符を打ち、実家に引き上げた。

実家帰省後は、スペインでの婚姻手続きに必要な書類を集めたり、移住の準備をしながら1ヵ月ほど両親と暮らした。

そしていよいよスペインに旅立つ日。

1泊だけ滞在した都内のビジネスホテルで、成田空港へ向かう数時間前の深夜に、この日記を書いて投稿した。

 

私はこの日記を、今でも時々読み返す。

どんな思いでスペインへの移住を決めたのか、そして、そんな私を送り出すほかなかった両親への感謝と贖罪の心を忘れないために。

 

* * * * * * * * *

20●●年5月3日

 

お久しぶりです、東京。

今日、東京入りしました。

(…と言っても、もうこんな時間なので、もう“昨日”ですが笑。)

実家では方言と訛り100%丸出しの日々だったので、標準語がたどたどしいったらありゃしません。

 

明日、成田へ向かいます。

GWは飛行機のチケットがさぞかし高かろうと思っていましたが、なか日だからか、思いのほか安く手に入り、連休終了を待たずして、旅立つことになりました。

 

そういえば、先月半ばに、ようやく実家でも桜が咲きました。

GW前半は、見頃のピークは過ぎつつも、まだまだ花が付いていましたが、ここ最近の冷たい雨風で、だいぶ花びらが落ちてしまいました。

それに今年は、やっと開花した頃に積もるほどの大雪が降ったのが原因か、「あんまりキレイに咲いてない。」と、両親がぼやいていました。

 

そうそう、あの、大雪が降った日の翌々日だったかな、とうとう実家の近所でも桜が咲き始めたので、デジカメとトイカメラを持って、ふらりと散歩に出かけたんです。

村はずれに、誰ーーも来ない公園があるんですけども、たぶん村の中でいちばん多く桜の木がある場所だと思って、その公園へ出かけました。

 

公園で、咲き始めたばっかりの桜の写真を一通り撮りまくって、ベンチに座って一服していたら、あれは何だろうなー、シジュウカラかなー、見かけないキレイな鳥が飛んで来て、桜の枝にとまりました。

「これはシャッターチャンス!」と、物音を立てないように、息を殺してやおら立とうとしたその時、今度は桜の木と反対側の、神社がある方の藪の中で、カサカサ物音がするもんですから、ギョッとして見てみたら、なんとリスが木から降りてきて、エサを探して歩き回る音でした。

いくら山育ちでも、野生のリスなんて滅多にお目にかかれないので、これもまさにシャッターチャンス!と思ったのですが、桜の枝の鳥も撮りたいし、リスも撮りたいし、さてどうしようかとオロオロしているうちに、鳥もリスもあっという間にいなくなってしまいました。

“二兎追うものは…”ってやつですな。

 

その後、神社に寄って「家族をよろしく頼みます。」とお参りし、帰り道のあぜ道では、用水路に小さなザリガニの子どもがいるのを発見して再び興奮し、杉の木の枝でつついてみたりして、まるで幼い頃に返ったような気持ちになりました。

 

一生帰って来ない訳ではないけれど(早速来年里帰りするつもりだけど笑)、もう二度とこの時間は戻って来ないんだなぁと、なんだかふとそう思って、こののどかな風景が急に恋しくなりました。

 

人生っていうのは、おもしろいなーと思います。

 

東京で暮らし始める時も、まさか私が東京に行くなんて、想像もしていませんでした。

結婚だって、つい何年か前までは、地元に帰ってからするんだと思っていました。

 

10代とか、まだまだ青かった頃は、将来は留学したいなーとか、外国で暮らしてみたいなーとか、ハーフの子どもが欲しいなーとか、現実離れした夢を見てたこともありました。

でもまさか、その20…ウン年後に、本当に日本を離れることになろうとは。

ドラえもんのタイムマシンを貸していただけるのであれば、ぜひとも青かりし頃の私に会いに行って、「あんた、あと何年後にはスペインに嫁に行くぜ」と、コッソリ教えてやりたいものです。

 

自分は、後先を考えない、ただのバカタレなんだと思うのですが、外国に住むのも東京で住んでるのと大して変わらないと思っていました。

東京に住んでいた頃は、実家にそんなに頻繁に帰ってたわけでもないし。

東京に比べれば、距離は確実に遠くなりますが、話そうと思えばメールもSkypeもあるし、さほど不便さはなかろうと思っていたんです。

でも、実家を発つ日が近づくにつれて、以前の、東京に戻る時の感覚とは何か違う感覚が生まれてきて、それは私だけでなく、この1ヶ月近く一緒に過ごした両親も同じようでした。

 

一昨日は、昼間は今にも雨が降りそうな、どんより曇り空の寒い日で、母はパートでいなくて、父は畑仕事をしたくても、この空模様の中ではどうもやる気が起きないらしく、暇だー暇だー言いながらテレビを観ていました。

なので、「お父さん、ちょっとお願いがあるんだけど…」と言って、高校時代からの親友だった亡きKちゃんのお墓参りに連れて行ってもらいました。

内心、「えぇー。遠いしー!」とかなんとか言われて、却下されるかと思ってたんですが、「じゃあ行くか。線香と新聞紙用意しろ。」と、思いもよらない返事が返ってきて、ちょっと驚きました。

 

昨日は、午前中、スーツケースに荷物を詰めていたら、母がやって来て、「最後のお昼ご飯になるから、お父さんとどっか食べに行かない?」と誘ってきました。

行ったのは、結局近くのラーメン屋だったんですけど、行きも帰りも私に車を運転させてくれました。

帰りにスーパーで買い物をして、アイスを買ったっていうのに、父の誘導で少し遠回りして、ドライブして帰りました。

 

今日は、朝から母が、薬は十分持ったのかとか、荷物は全部スーツケースに入ったのかとか、飛行機のチケットや、東京に行く高速バスのチケットはちゃんと準備してあるんでしょうねとか、始終質問攻めでした。

ここ数日、私の唇にできものができていたのを気にして、「お母さんのチョコラBB持っていきなさい。」と、開けたばかりの1瓶を丸ごとくれました。

 

以前は、私が東京に戻る時は、父は「少しばかり早く着いてもいーべ!」と言って、私を早めに駅に送っていたのですが、今日は「まだ大丈夫だな。」と言いながら、ギリギリまで家にいました。

駅に着いても、いつもだったら父も母も車から降りることなく、私を降ろすと「じゃあ、また頑張ってー!」とだけ言ってさっさと行ってしまうのに、今日は母が車を降りて、高速バス乗り場の所まで一緒に来てくれました。

 

いざバスに乗り込むという時、「ここはハグか?いや、そりゃ恥ずかしいべ、欧米人じゃあるまいし…。」などと思いながら、母に手を差し出し、握手を求めました。

「じゃあ、元気でね!」って明るく言おうと思って。

 

私が手を差し出した途端、母は張りつめていた糸が切れたみたいに、泣き出しました。

母が泣くところなんて、テレビドラマの感動シーンの度に何度も見ているし、その度によくちゃかしていたのに、今回はちゃかすどころか、胸が詰まってうまく「元気でね!」が言えませんでした。

涙で詰まるのをごまかして「また来年、来るから、ね。」としか言えず、母と別れました。

 

そもそも、私の両親はこの結婚に反対で、はるばる日本までやって来たビクトルを初めて両親に紹介した後、父は1年間、口をきいてくれないほどでした。

 

先日は、父が毎週欠かさず観ている、世界を旅するテレビ番組で、偶然にもスペインのとある街を取り上げていたのですが、「今日のはなんだかおもしろくねぇな。」と言ってチャンネルを変えてしまいました。

でも、他のチャンネルではおもしろそうな番組がやってなかったようで、結局父は無言でその旅番組のチャンネルに戻し、そんな父の姿を見て、母と私はこっそり笑いました。

 

そんな父が、ある日、寝坊して遅い朝食をとっていた私に、「年金生活だから、あんまりたくさんやれないけど…。」と言って、銀行の封筒を差し出しました。

「どこに行っても、金は必要だべ?」と捨てゼリフを残して、父は畑仕事に出かけてしまったのですが、その後、1人残された私は、ご飯を食べながら泣きました。

 

親は偉大だと、つくづく思いました。

 

曇り空の下、走る高速バスの中で、「お母さんを泣かせてまで、私は行かなきゃならんのか?」と、ふとそんな思いさえよぎりました。

 

両親が私に思い描いている願いを、私は今までも100%叶えてやることはできていません。

向こうに行ったら、それはますます難しくなるだろうとも思います。

でも、まったくできない訳でもないんじゃないかとも思うんです。

単にそれは、まだ向こうでの生活がどんなもんかわからないから、そう思えるだけなのかもしれませんが。

 

まずは、「あぁ、あいつは無事に上手いことやってんだな。」と、両親にそう思ってもらえるように、頑張っていこうかなと思います。

 

それでは、行ってきます!

¡Adiós, Japón!

皆さんもどうぞお元気で!

* * * * * * * * *

 

 

■本記事のタイトルは、映画「SAYONARA AMERICA」(2021年公開、日本)をモジって使わせていただきました。

記事の内容と映画は、一切関係ありません。


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