梅子のスペイン暇つぶし劇場

毒を吐きますので、ご気分の優れない方はご来場をご遠慮ください。

顔を変えし女

正直、何をどこから話したらいいものやら、頭の整理がつかないまま書くことにします…。

 

 

 

「俺は神に誓って言うよ…。俺はお前のママと近いうち、離婚する。」

 

「どうせアンタは、マックスの味方なんでしょ?私のこと大嫌いだものね!」

 

これは、この前の週末に、我が家の長男アーロンが、それぞれに言われた言葉だ。

言うまでもないが、最初のがマックスから、次のがシュエから。

 

 

この週末は、4月30日が日曜日、5月1日は月曜日。

この国では、1日は、いわゆるメーデー(労働者の日)で祝日なのだが、今回、シュエはいつものように日曜の夜に、我が家に子供たちを返してきた。

厳密に言えば、送り返してくれたのはマックスで、シュエはその場にはいなかったのだが。

 

いつもならば、翌日は学校だから、私たちはいつも急かすように子供たちを寝かせるのだけれど、今回は祝日だから、子供たちにのんびりと寝支度をさせていた。

子供たちやビクトルがヤイヤイやっている頃、私はたまたまキッチンにいた。

そこにアーロンがやって来て、私たちはたわいもない会話を始めた。

そしてふと、アーロンが「週末は最悪だった…。」と愚痴をこぼし始めた。

 

「なんで最悪だったの?」と、私が聞くと、「だって、マックスは怒るし、ママは怒るし…。」と、アーロンが言った。

“マックスが怒り、ママも怒る”…ということは、さてはアーロンが何かやらかしたのか?と、まず思った。

「なんでよ?アンタ、何かやらかしたの?」と、私がアーロンに問いかけた時、運が良いのか悪いのか、ビクトルもキッチンにやって来た。

ビクトルは、私のこの「何かやらかしたの?」という言葉を聞いてしまったもんだから、「何話してるんだ?アーロン、お前何かやったのか?」と、まるで“今から叱ります!”とばかりの、若干の臨戦態勢で、私たちの会話に入ってきた。

アーロンは咄嗟に「違うよ!僕は何もやってないよ!」と言い、週末にあった出来事を話し始めた。

アーロンが話し始めた時、実は私はアーロンが何を話しだしたのか、よくわからなかった。

それを察したのか、ビクトルは一旦アーロンの話を止め、「梅子、後で教えてあげるから、ここはいいよ。エクトルの所に行ってくれ。」と、私に言った。

私は、きょとんとしたまま、エクトルがいる子供部屋へ移動した。

ビクトルとアーロンは、キッチンから廊下へと少しずつ移動しながらも、その後もしばらく話し込んでいた。

 

2人の立ち話が、10分…、20分…を超えたぐらいだろうか。

「とにかく、お前はもうすぐ14歳だ。これからは、友達付き合いも忙しくなって、少しはあの家から自由になれる。それに14歳を過ぎれば、週末をママと一緒にいたいのか、パパと一緒にいたいのか、少しずつお前の融通が利いてくる。だから、それまでもう少し待て。パパもお前の力になってやるから、な?」

ビクトルがアーロンにそう言っているのが聞こえて、今まで彼らが何を話していたのか、だいたいの察しがついた。

そして、子供たちが深い眠りについた頃、ビクトルがアーロンから聞いた話を教えてくれた。―――

 

 

金曜日、シュエはマックスに用事を頼んでいた。

用事とは、シュエが最近購入した、賃貸用ピソ(アパートと言うのか、マンションと言うのか…)の修繕だ。

 

ここで1つ、読者の皆様に訂正のご報告とお詫びがある。

 

我が夫ビクトルとシュエが離婚した時、シュエは離婚の条件として、ビクトル家の財産であった、とあるピソを譲り受けた。

少し小さい家ではあったが、中心街に建つ、立地条件のすこぶる良い物件だった。

その後、シュエもビクトルもそれぞれ再婚し、シュエ夫婦には新しい子供、フアンが生まれた。

それまでは、シュエは再婚相手のマックスと共に、このピソに住んでいたのだが、子供が増え、手狭に感じたシュエは、自身で新たに郊外にピソを買い、移り住んだ。

ここまでの話は、過去記事で何度か話したことがあるので(シュエが新しい住所をビクトルに教えたくないと騒いで、弁護士交えて揉めたこととか)、読者の皆様もきっとまだ遠い記憶にあるかと思う。

 

この、新しいピソを購入する際、シュエはビクトルが離婚の際に譲渡したあのピソを売ったと、ビクトルと私は思っていた。

子供たちから聞いていた時もそう思っていたし、いくら郊外とはいえ、部屋数が以前の倍近くもあって、パティオまである広いピソとなると、結構な値段だ。

シュエは高給取りだけれど、あの頃は散財も激しかったので、あのビクトルからのピソを売れば、頭金か、もしくは下手すれば新居購入のほとんどを賄ったと思っていた。

 

ところが実はそうじゃなかった。

シュエは、あのピソを手放さずにいたのだった。

後に、エクトルが教えてくれた。

「新しい家を買う時、ママは会社のボスからお金を借りたんだよ。それで、パパからもらったあの家は、新しい家に引っ越した後、何回かみんなで掃除に行ったんだ。それからマックスが修理をして、今は、別の人に貸してるんだよ。ママはその家賃をもらってるの。」

ちなみに、このボスとシュエは、ビクトルとの別居時代から、それこそ“密月”の関係だ。

「外国人の女が、外国で1人で生き抜いていくためには、枕営業だって必要なのよ!」と、ビクトルに逆ギレしていた時を同じくして、シュエは、「私みたいにボスと“親しく”なれなかったから、同期だった日本人の同僚(女性)はクビになって、私が昇進できたの。」と、ビクトルに教えてくれたことがある。

 

そして、最近になって、シュエはもう1つ、賃貸用にピソを買った。

(これもついこの間、エクトルが教えてくれた。)

エクトルの話によると、この2つ目のピソは、本当に最近買ったばかりだそうで、人に貸すまでには、まだいろいろと修繕が必要らしい。

その修繕というのが、シュエがマックスに依頼していた“用事”で、今回の本題になる。

しかしまぁ、シュエは本当にすごい人だ。

私たちが住んでいるこの地方都市は、主要都市から比べれば、賃貸も不動産もまだまだ安い。

これから建設予定の大型マンションともなれば、それこそ、日本円で何千万単位の値段だけれど、この国では築50年、60年なんていう物件はざらにあるので、築年数や部屋数、広さ、エレベーターの有無とか、立地条件とか、贅沢を言わなければ、この街では、数百万でピソが買える。

日本に比べれば、破格の安さだけれども、でもそれでも、1つならず2つも買えてしまうシュエって、何なんだ?

株でも始めたんだろうか。

 

話を戻して…、日曜の夜にアーロンが語った出来事。

 

金曜日、シュエはマックスに、その、購入したばかりのピソの修繕を頼んでいた。

にもかかわらず、マックスは実家のある村に1人で出かけ、以前から欲しかった車のパーツを買いに行ってしまい、シュエの依頼をサボったのだそうだ。

故意のサボりなのか、そうでないのかはわからない。

しかも、車のパーツを買った後、マックスはこともあろうに地元の友人たちと飲みに出かけ、その日彼は、シュエと子供たちが待つ家には帰って来なかった。

 

翌、土曜日。

シュエは、大きなスーツケース3個と、大きな旅行用バッグ2つに、マックスの衣類やら私物やら、一切合財を詰め込み、マックスの帰りを待ち構えていた。

そこにマックスが帰宅。

マックスは自分の物がすべて荷造りされていることに驚いた。

そして、地獄の夫婦喧嘩が始まった。

シュエは、マックスが依頼をサボったこと、勝手に実家に行き、しかも禁止していた飲みに行ったことに腹を立てていた。

喧嘩の間、アーロンは争いを避け、自室に引っ込んでいた。

エクトルは、怒鳴り合う2人に構わず、同じ部屋でテレビに興じていたらしい。

異父弟のフアンもまた、シュエが吠えようがマックスが怒鳴ろうが、ケロッとして、2人の傍で遊んでいたそうだ。

 

夫婦喧嘩が終わり、マックスが席を外した時、そこにちょうどやって来たアーロンに向かって、シュエは言った。

「あの人はいつも間違ったことしかしない。正しいことをやってるのを見たことがないわ!私の頼みだって、1度だって聞いてくれたことがない!」

それを聞いて、アーロンは思わず「えぇーーーー!!!!」と、ドン引いたそうだ。

それで、「金曜日のことについては、今回はマックスが悪いって、僕も思うよ。だけど、毎回間違ったことをしてるとは思わないな。ママの頼みとか言うことだって、普段はよく聞いて、いろいろやってくれてるじゃん。」と、つい、自分の意見をコメントしてしまった。

 

そして、このアーロンのコメントが、シュエの怒りの炎を再び点火してしまった。

それが、冒頭のあの言葉である。

「はぁ?!どうせアンタは、マックスの味方なんでしょ?私のこと大嫌いだものね!」

シュエのこの言葉に、アーロンは呆れた。

「誰がママのこと嫌いだなんて言った?嫌いだなんて、僕がいつ言ったんだよ?僕は1度もママのこと嫌いだなんて、言ったこともないし思ったこともないよ?」

しかし、怒りに燃え盛るシュエに、アーロンのこの言葉は届いていなかった。

「そんなに私のことが嫌いなら、パパに言いな!“ママが持ってる半分の僕の親権も、パパに持って欲しい。”って!」

 

日本ではちょっと考えられない話かもしれないが、この国では、子持ちの夫婦が離婚する場合、片方に子供を育てられないような相当すごい理由があるか、もしくは予め双方の同意がない限り、子供の親権は、父親と母親双方が、50/50で持つことになるので、片方が100%親権を持つというのは、結構稀だ。

 

ここまでの話を聞いて、ビクトルはアーロンに言った。

「アーロン、ごめんな。でも、パパはお前たちの親権を100%持ちたくない。どうしてかわかるか?」

この時アーロンは、一瞬悲しいような、でもどうして?というような顔をしたらしい。

「それが、ママの本当の狙いだからだよ。ママは、お前たちの前では、そんなことおくびにも出さないだろうけど、本当は、お前とエクトルの責任を持ちたくないんだよ。パパと離婚したと同時に、ママはお前たちを育てることからも逃れて、本当の自由を手に入れたかったんだ。でも、パパはそんなこと絶対にさせない。ママはお前たちのママなんだ。母親として絶対にお前たちの責任を持たせる。だから、パパは絶対にママの親権は取らないよ。」

 

私が日本の友人にシュエや子供たちのことを話すと、「ビクトルが子供たちの親権全部持てばいいのに。子供たちのためにも、ビクトルが親権持った方がよくない?」と、よく言われる。

私も、昔はよくそう思っていたし、今でも時々そう思う。

子供たちに“毒”しか与えない母親と過ごさせて、子供たちに一体何のメリットがあるのか。

しかし、その一方で、シュエの自由のために、どうしてビクトルや子供たちが苦労しなければならない?という、思いもある。

そうでなくとも、皆が皆、シュエには散々振り回されてきた。

これ以上、彼女の好き勝手に付き合いたくはない。

自分で蒔いた種は、責任持って育て上げ、刈り取れ!

それが、ビクトルの思いなのだ。

 

アーロンは、ビクトルの話を聞いて深く頷くと、「たしかにね。パパの言うとおりだ。」と言ったそうだ。

 

日曜日、マックスは朝早くに、シュエが購入したばかりのピソに行き、頼まれていた修理をした。

その後、シュエの家に帰って来ても、2人は何も言葉を交わさず、それは1日中続いたそうだ。

夜になって、アーロンとエクトルがビクトルの元に帰る時間になり、マックスが車を出した。

シュエは、いつものように異父弟フアンと共に家に残った。

車の中で、マックスがアーロンに言った。

それが、もう1つの冒頭の言葉。

「アーロン、ごめんな。でも、俺は神に誓って言うよ…。俺はお前のママと近いうち、離婚する。」

アーロンは、助手席でただただマックスの話を聞いたそうだ。

マックスは続けた。

「でもな、まだ決断はできないんだよ。もし俺たちが離婚したら、俺はお前とエクトルに2回目の離婚のショックを与えることになるし、お前たち兄弟が、またあの母親の元に残されたら、この先どうなってしまうのか、心配でたまらないんだ。俺の息子のフアンもな。お前たち3人が不憫でならない。だから、まだ決心できないんだ。」

 

マックスは、もう本当に、アーロンにとってもエクトルにとっても、“父親”になっていた。

酔っ払ったり、シュエからコッソリお金を拝借したり、時々とんでもないことをしでかすけれど、子供たちへの愛情は本物で、それはビクトルも私もすでにわかってはいたけれど、少なくともマックスがいてくれるから、安心して子供たちをシュエの元へ行かせることができていた。

 

アーロンがビクトルに聞いた。

「ねぇ、パパ。もし、ママとマックスが離婚しちゃったら、僕はもうマックスと会っちゃいけないの?マックスの実家の村に行っちゃいけない?」

ビクトルは、「もちろんいいさ!まぁ、でも、ママに言うと“ダメ!”とか言いそうだから、マックスに会いたい時は、パパに言ってくれた方がいいかもしれないな。」と、答えた。

アーロンは「うん、わかった。そうするよ。」と言い、安心したような顔をした。

 

 ―――

日曜の夜の出来事は、以上です。

さて、本記事のタイトル「顔を変えし女」ですが、皆様お気づきの通り、その女とは、何を隠そう、シュエであります。

最近のいくつかの過去記事で、シュエの整形疑惑について、ちょこちょこと触れておりましたが、つい先日、とうとう“疑惑”が“確信”へと昇格しましたので、ここにお伝えいたします。

 

…と、言いますのも、先日たまたま、たまたまですよ、Facebookを開いて、人物検索をしようとした時に、検索履歴がズラズラっと出てきまして、その中に、たまたまシュエの名前があったのです。

もうだいぶ昔に検索した履歴が、今でも残っていることにも驚いたのですが、驚いたのはそれだけではありませんでした。

名前と同時に表示されるアイコンの、彼女の顔写真が変わっている!

好奇心に負け、思わず開いてみたのですが、以前まで一重まぶたであったはずの顔が、ぱっちり二重の可愛い顔になっていました。

よーーーく見ると、まだ目元は少し紫がかっていて、小さいアザが見受けられたので、手術の腫れが引いて間もなく…の顔ではないかと思われます。

おそらく、可愛いくなった顔をいち早く公開したかったのでしょう。

 

その女心、わからなくもないですが、1つだけ、全然わからないことがあります。

彼女は一体、誰のために、何のために、美容整形手術に踏み切ったのだろうということです。

おそらくは、…も何も、それはきっともちろん、自分自身のためでしょう。

自称“産後うつ”に悩まされ、心の行き止まりにぶつかっていた時、彼女にとって唯一の“抜け道”が、美容整形で変身することだったのかもしれません。

ずっとコンプレックスだったものが解決して、可愛くなれば、心も晴れます。

 

ハッキリ言って、シュエの整形について、私は思いっきり冷やかしていますが(笑)、でもその一方で、可愛く変身できたのなら、たとえ一時的でも、性格も少し変わってくれるんじゃないかと、ポジティブに淡い期待も抱いていました。

旦那さんのマックスや、我が家の子供たちからも「キレイになったね。」とかなんとか言われて、皆に優しくなってくれるといいなぁと思っていました。

でも、今回の週末の出来事を聞いて、そんな(個人的な)期待は、見事にかき消されてしまったわけです。

シュエはやっぱり、私が知っているままのシュエでした。

となると、彼女の美容整形手術は、一体何のためだったんだろう…。

 

シュエとビクトルがまだ夫婦だった頃、シュエが家を飛び出し、別居が始まると、シュエは小鼻の所にピアスを開けました。

それは、ビクトルにはかなりの衝撃でした。

そして彼女は、夜な夜な街に出かけ、たくさんの男性たちと知り合います。

その中にマックスもいます。

 

そういう過去があるだけに、私も、そしてビクトルも、考えずにはいられないことがあります。

今回の美容整形は、シュエが次の新たな人生を始める準備なのではないか…と。

 

 

■本記事のタイトルは、映画「神の変えし女」(1921年公開、アメリカ)をモジって使わせていただきました。
記事の内容と映画は、一切関係ありません。