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梅子のスペイン暇つぶし劇場

毒を吐きますので、ご気分の優れない方はご来場をご遠慮ください。

忘れられる子供たち…のユニフォーム 後編

前回までのお話は、コチラ

 

 

「続きもどうぞお付き合いください。」とか言っておきながら、あれよあれよのうちに、もう次の週末が来てしまった。

年を追う毎に、月日の流れる早さにゾッとする。

 

さて、それでは改めて、先週日曜日の話。

 

日曜日の午後、私とビクトルは、昼食を終え、午後は何をして過ごそうかと、話していた。

ビクトルは、「とりあえず、シエスタ(昼寝)でもしようかな。」と言い、私が「じゃあ、その後でいいからさ~、コーヒー飲みに行こうよ!」と言うと、ビクトルは「え~。また~?ゆっくり映画でも見ようと思ってたのに~。」と渋った。

寝室へ向かうビクトルを追いかけながら、私は「いいじゃんかー。映画はその後!カフェに行こうよ!ね!」と誘った。

そんな、夫婦の他愛もないやりとりをしていると、突然、ビクトルの携帯が鳴っているのが聞こえた。

2人共、一瞬にして沈黙する。

ビクトルの携帯は、着信音が鳴り続け、私は我に返ったように「あ、携帯鳴ってるよ…。」と言い、それに反応して、ビクトルは無言で、携帯のあるリビングへ踵を返した。

私も再び後を追う。

 

リビングに着いた時にはもう、携帯は鳴り止んでいた。

すでに時遅しで、ビクトルはただ茫然と、不在着信を見ていた。

着信の相手は、シュエの現夫、マックスだった。

またかよ…と思った。

 

以前の記事「裁きは終りぬ ~一旦終息編~」でもお伝えしたが、先月の、シュエの海外出張中、シュエはビクトルに「私の留守中に、マックスと連絡を取り合わないでくれ。」とメールで釘を刺してきた。

前記事ではお伝えしなかったが、このシュエからのメールには少し続きがあって、「子供たちのことは、私とあなた、2人だけの問題なのだから。」と、締めくくられていた。

そして、おそらくマックスもシュエからきつく言われていたのだろう、シュエの出張中、マックスからビクトルに電話がかかってくることもなければ、ビクトルが1度試しに電話をかけても、電話には出ず、折り返しもかけてこなかった。

その状況を見て、長男アーロンは、「今、ママとマックスの夫婦仲は緊張状態なんだって、マックスが言ってたからね。マックスはママをこれ以上怒らせたくないから、言いつけを守ってるんだと思うよ。」と言っていた。

 

ところが、だ。

シュエが帰って来た途端、早くもマックスから電話が来るとは。

「少なくとも、シュエの声を聞いたり、嫌みだらけのメールで胸糞悪い思いをすることはないし、マックスは話がわかる相手だから、僕はマックスと話す方が断然好ましいよ。」と、ビクトルは言うが、“子供たちのことは、私たちの問題!”とか何とかカッコいいこと言ってた人が、こうもあっさりと手の平を返して、早速自分の旦那を介入させるって、どうなの?

シュエのこういう所が気に食わないんだよなぁ。

 

愚痴はともかく、今考えなければならないことは、マックスから電話がかかってきたことに、どう対処するか、だ。

私は、ビクトルがすぐさま折り返して電話をかけるのか、どうするのか、固唾を飲んで見守った。

ビクトルは、「梅子、出かける準備して。コーヒーを飲みに行こう。」と言った。

私は「うん、わかった。」と言って、すぐさま靴を履き替えに行った。

ビクトルはおそらく、外でマックスに電話をかけて、「今、外にいるんだ。」と言うのだろうと、すぐに察しがついた。

靴を履き替え、コートを羽織り、バッグを持ち、いざ出発!という時に、今度は自宅の電話が鳴った。

ドキッとした。

でも、私たちは、電話が鳴り響く中、家を後にした。

 

カフェに向かう途中で、ビクトルが言った。

「あの宅電も、おそらくあいつらだろう。シュエか子供たちが宅電の番号を教えて、マックスにかけさせたか、もしかしたらエクトル辺りがかけてきたんだと思う。要件はきっと、“子供たちを早めに帰したい”って話だと思うよ。どうせまたマックスの車が故障したんだろうさ。」

私も、薄々、そうじゃないかなぁとは思っていた。

「あいつらの好きにさせてたまるか。なんで僕たちがいつもあいつらのバカバカしい問題のために、日曜日の午後を全部潰して、待ってなきゃならないんだ?」と、ビクトルは怒っていた。

 

時々ふと思うのだけど、シュエやマックスにとって、私たち夫婦はまるで彼らの親=アーロンとエクトルの祖父母、みたいに捉えているのではないだろうかと、感じる時がある。

自分たちにトラブルが発生して、子供たちの面倒を見ていられない状況になると、「さぁ、おじいちゃんとおばあちゃんの家に行きましょう!」というような感覚で、「さぁ、パパの家に帰りましょう!」という発想になるのではないだろうか。

なぜなら、ビクトルも私も、それこそ老夫婦のように、日頃から大した遠出もせず、家にいるのが好きな人種だということを、シュエもマックスも子供たちも、すでに認識しているし、決して口には出さないけれど、彼らにとって私たち夫婦には、絶大な信頼と安心があるのだろう。

だから、困ったことが起きるとすぐに、彼らは私たち夫婦に泣きつくのだ。

もう離婚して何年もたつんだし、シュエにだって旦那がいて、新しい子供までいて、車や家も買えるほど“一応”経済も安定しているし、とにもかくにも、もういい大人なんだから、いい加減ビクトルから“卒業”して、自分たちの足で立ってほしい。

 

カフェにまだ着かないうちに、ビクトルは早速マックスの携帯に電話した。

マックスはすぐに出た。

マックスの要件は、ビクトルの推理したとおりだった。

昼食後、彼は洗車に行った。

それまでは、車の調子は順調だったのに、洗車を終えた途端、またしてもライトが故障した。

どうにもこうにもライトが点かなくなったらしい。

「そういうわけで、夜は車が使えないので、明るい今のうちに子供たちを返してもいいでしょうか?」とのことだった。

ビクトルは、ぴしゃりと断った。

「今、外にいるんだ。家に着くのは、早くても21時過ぎになると思うから、今子供たちを返されても、ちょっと困っちゃうなぁ。」と、大ぼらを吹いた。

しかしマックスは、いともあっさりとビクトルの大ぼらを受け入れ、「あ、そうなんですか。わかりました。それじゃあ、今夜もいつもどおり22時に子供たちをタクシーで帰します。」と返事をした。

その後マックスは、再びの車の故障のことやら、修理屋のダメさをビクトルに愚痴るだけ愚痴って、話を終えた。

電話を切った後、ビクトルは私に「ほらね、僕の言ったとおりだった。」と言った。

 

今回のマックスからの電話に、私は少し釈然としないものがあった。

マックスの車の故障なんて、今に始まったことでもないし、今までにもこういうことは何度もあった。

以前、1度だけ、あの時もまたマックスの車のライトが云々…で、シュエがビクトルにメールをよこしてきて、メールで散々バトルした挙句、シュエの強行によって子供たちが早めに返されてきたことがあったけれど、それ以来は、マックスの車が故障で使えない時は、子供たちは修理中に借りていた代車か、タクシーで、時間どおりに帰されてきていた。

それなのに、どうして今回は、久しぶりに「早く返したい。」なんて言ってきたのだろう。

言っていたこと、考えていたことがコロコロ変わり、波風立てたがるシュエならともかく、わざわざ嫁の元旦那に電話をかけて、「子供たちを返してもいいでしょうか?」とお伺いを立てるなんて、マックスはこういう面倒事は、嫌がるはずなのに。

 

「おそらくシュエが仕向けたんだろうさ。それか、子供たちかもな。最近子供たちは、あまりシュエと一緒にいたくないみたいだから、マックスに“電話して!電話して!”って、シュエと一緒になって急き立てたのかもしれない。」

ビクトルは言った。

私もそう考えた。

おそらく、ビクトルの推理は、これもきっと当たりだろう。

 

「とにかく、我々の勝利だ!勝利の美酒…ならぬコーヒーを乾杯しよう!」

ビクトルが急に生き生きした表情になり、私たちはカフェに向かった。

その後、帰宅して、ビクトルはシエスタこそできなかったものの、映画のDVDを1本見て、平和なひと時を過ごした。

 

22時を少し回った頃、アーロンとエクトルがタクシーで帰って来た。

マックスにタクシー代を持たされたと言うアーロンは、タクシーの料金チケットを大事そうに持っていて、「来週マックスに渡さなくちゃ。」と言っていた。

 

いつもの日曜の夜の如く、子供たちは子供部屋でパジャマに着替えながら、ビクトルを奪い合うように次から次へと、週末の出来事なんかを話して聞かせていた。

そんな時、「タクシーの運転手がね、道を間違えて、違う場所で降ろされそうになったんだ。」と、アーロンが笑い話のように話しだした。

我が家の前を通る大通りは、一方通行の直線なのだが、長い通りなので、番地をきちんと伝えないと、下手して通りの始まりの方で降ろされた日には、我が家まで20分も30分も歩かなければならない。

「僕寝てたからさー、気が付かなくって!」と、アーロンがアハハと笑っているのを見て、私は咄嗟にたしなめた。

「ちょっとー!大人と一緒に乗るなら寝てもいいけど、アンタたち子供だけでタクシーに乗る時は、寝てる場合じゃないでしょう!しかもアンタはお兄ちゃんなんだから、もっと緊張感を持ちなさいよ!今のご時世、タクシーの運転手だって、危ない人はたくさんいるんだからね!変な所にでも連れて行かれたらどうすんのよ!」

それまで隣りの書斎で、子供たちの話を笑って聞いていたビクトルも、私がアーロンを叱っているのに気付いて、早足で子供部屋へ入って来た。

そして、「そうだぞ!アーロン!梅子の言うことは脅かしなんかじゃないぞ!本当にあり得ることなんだぞ!エクトルと2人だけでタクシーに乗る時は、絶対に寝るな!」と、アーロンを叱った。

事の重大さを理解したのかどうかはイマイチわからないけれど、アーロンはとりあえず、「わかった。」とだけ言って、おとなしくなった。

 

その後も、ビクトルと子供たちの会話は続いた。

私は、そんな親子の会話を聞きながら、子供たちが脱いだ服を集め、畳み、子供たちの靴棚の上に置いた。

脱ぎ捨てられた靴下を拾い集め、エクトルのバックパックから汚れたスモックを回収し、キッチンの洗濯機に向かおうとして、「あぁ、そうだ、あと制服もだわ。」と気が付いて、子供部屋を見渡すも、いつも日曜の夜には無造作に床に放り投げられているはずの、子供たちが持ち帰って来るべき制服の入った袋は、どこにもなかった。

私は、ビクトルと子供たちの微笑ましい会話をやむなく遮り、「ねえ、制服は?」と、アーロンに聞いた。

アーロンは、「たしかこの辺に…」とでも言うように、一瞬床の上を見渡したが、間もなく、表情がこわばったのを、私は見逃さなかった。

「制服、どこにあるの?」と、私がもう1度尋ねると、アーロンは、こわばった表情のまま「忘れた…。」と、一言だけボソッと言った。

 

まーーーーじーーーーかーーーー!!!!!!

 

私が嘆く前に、ビクトルが吠えた。

「おい!アーロン!どうなってんだ?!制服全部忘れてきたのか?!オー!ディオス ミオー!!(=オーマイガー!!)お前たちは先週まで毎週のように怒られていたのに、結局何にも学習していない!何にもわかっていない!アーロン!お前には兄としての自覚もなければ責任も感じてやしない!」

ビクトルはそう吠えて、壁を2度3度拳で叩き、やり場のない怒りを壁にぶつけた。

一瞬にして、子供部屋の空気が変わり、緊張が走った。

それまで、ビクトルやアーロンとヤイヤイしながら、のろのろとパジャマに着替えていたエクトルも、ビクトルを見て固まったが、思い出したように、でも今度は超ハイスピードで着替えを続行した。

 

吠えたいのは、ビクトルだけじゃない。

私もだ。

「まじかまじかまじか…」と呪文のように呟きながら、はっ!と気付く。

その間も、ビクトルは引き続きアーロンを叱り倒していたが、私は果敢に割って入り、「アーロン!忘れたって、まさかタクシーに忘れたんじゃないよね?ママの家だよね?どっち?タクシーじゃないよね?」と、アーロンに聞いた。

アーロンはムッとした低い声で「ママの家に決まってるじゃん。たぶん、マックスの車のトランクだよ!」と答えた。

「なんだその言い方は!」

アーロンの、私への答え方にビクトルがますます腹を立て、ビクトルの説教、再び。

私は、1人子供部屋を後にして、とりあえず持っていた子供たちの汚れ物を洗濯機へ入れに行った。

その間も、私は「まじかまじかまじか…」と呪文を呟き続け、頭の中では、子供たちの明日からの制服のスケジュールと、今手元にある制服だけで何曜日までならやりくりできるかを、ハイスピードで計算していた。

ビクトルが頭から煙を吐き出さんばかりの様子で、キッチンにやって来た。

そして「今からマックスにメールをするよ。何曜日までならやりくりできそう?」と、私に聞いた。

私は「水曜日!それまでなら、なんとか!」と、答えた。

 

ビクトルがマックスにメールを打っている間、子供部屋では今度は子供たちが言い争っていた。

「お前がマックスに“制服の袋持て!”って言われてたじゃないか!」と、アーロンがエクトルを責めていた。

エクトルも負けずに、「でもあの時、僕はバックパックを取らなきゃいけなくて忙しかったんだよ!聞いてたなら、お前が袋を持ってくれたってよかったじゃないか!」と言っていた。

不謹慎にもちょっと笑ってしまったのは、この時子供たちはもうすでにベッドに入っていたのだが、2人共、背を向け合って、布団を頭まで被って言い争う、その光景だった。

気を取り直し、私もちょっとだけ怒りモードにスイッチON。

「あのさ、アーロン。アンタはもう幼稚園生でもないし、小学生でもない。中学生なんだよ!中学生!なんで自分ばっかり苦労しなきゃならないの?って思うかもしれないけど、しょうがないよ。だって、アンタがお兄ちゃんなんだもん。いくらエクトルに言っても、エクトルはまだ中学生じゃないんだし、限界があるの。それを手助けしてやるのが、お兄ちゃんのアンタの役目なんじゃない?そう思わない?」

アーロンはガバッと起き上がり、私を睨みつけたが、何も答えなかった。

メールを送信し終えたビクトルが、再び子供部屋に入って来て、今度は穏やかな口調で、「そうだぞ、アーロン。お前はエクトルの兄貴なんだ。嫌だろうが何だろうが、お前が責任を持たなくちゃならないんだよ。」と、アーロンに語り掛けた。

しかし、アーロンは、「なんでいつもいつも、僕ばっかり怒られて、僕ばっかりがやらなくちゃならないんだよ!不公平だ!」と叫んだ。

そして、再び、ビクトルの怒りに火が付いて、「黙れ!」と一喝。

「こんなに無責任なヤツだとは思わなかった!ガッカリした!もういい!もう寝ろ!」と言って、ビクトルは書斎に入って行った。

私はもう何も言うこともできず、子供部屋の電気を消して、ビクトルに続いて書斎に入った。

書斎に入るとすぐに、マックスから電話がかかってきた。

翌日、月曜日の朝、出勤前に我が家へ寄って、制服を届けるとのことだった。

マックスは最後に、「実家の村から市内の自宅へ戻って来て、車から荷物を降ろす時、アーロンに“制服の袋を持て。忘れるなよ。”って言ったんですけどね。あの時アイツ、ゲームがどうのこうのってエクトルと話すのに夢中だったから、聞いてなかったんだな…。」と、ビクトルにこぼした。

それを聞いて、ビクトルも私も、再び「アーロン…、アイツめ~!」と思ったのは、言うまでもない。

 

長男って、上の子って、こんなもんなんだろうか。

“兄としての自覚”とか、“兄としての責任”とか、最近の子たちは、あんまりそういうことは考えないんだろうか。

日本で2児(兄と妹)の母をしている私の友人にこの話をしたら、「ウチもそうよ~。初めての子だから、あれこれ手をかけすぎちゃったからだろうね~。」と言っていた。

なるほどね~。

 

長男…。

面倒臭し。

 

あ、ところで、前回お話ししたシュエの“整形疑惑”の件。

エクトル曰く、「ママは今週末も同じ顔だったよ。両方の上瞼がアザみたいに紫色で腫れてて、目尻の所に血の塊がくっついてた。」とのこと。

こりゃぁどう考えても、全然レーシックなんかじゃないよ。

整形だ、整形。

はぁ~。

私なんて、最近はめっきり化粧すらしなくなった。

整形とまではいかずとも、少しはシュエを見習って、女子力高めないと…。

 

 

■本記事シリーズのタイトルは、映画「忘れられた子供たち スカベンジャー」(1995年公開、日本)をモジって使わせていただきました。
記事の内容と映画は、一切関係ありません。