梅子のスペイン暇つぶし劇場

毒を吐きますので、ご気分の優れない方はご来場をご遠慮ください。

初夏の夜の夢

6月に入った途端、もうすっかり夏みたいに毎日暑くて、寝苦しい夜が続いている。

寝苦しいと熟睡できなくて、夢ばかり見る。

昨夜も夢を見た。

 

夢の中で、私とビクトルは、日本に里帰り中。

滞在して、まだ1週間もたっていないぐらいの頃だった。

私は1本の電話を受ける。

相手は、なんでまたこんな時にまで…、ビクトルの前妻、シュエだった。

 

シュエは、私にいくつか聞きたいことがあると言った。

それは、子供たちに関することだったのだが、学校のユニフォームのこととか、夏休みにやっているサマースクールのお知らせのこととか、大して緊急でもない用事だった。

若干イライラしつつも、私は丁寧に受け答えし、なぜかシュエもとても穏やかで、友好的な雰囲気の中、電話は終わった。

昨今の日中情勢じゃないけれど、私とシュエが友好的に話す…なんて、現実の世界ではおそらく一生起こり得ないだろう。

 

シュエから電話があったことをビクトルに話すと、ビクトルは顔をしかめた。

そして、その後、私の知らないところで、どうやらビクトルもシュエとコンタクトを取ったらしい。

ビクトルとシュエが何を話したのかはわからないのだけど、ビクトルは「申し訳ないけれど、僕だけでも今すぐスペインに帰った方が良さそうだ。シュエが子供たちを返したいと言っている。梅子は日程の最終日まで日本にいていいよ。」と、深刻な顔で私に話し、さっさとスペインに帰ってしまった。

 

1人、日本に取り残された私…。

まぁ、ここは日本だから、1人でもまったく問題はない。

だけど、まだ日本に来たばかりだから、スペインに持って帰ろうとしていた食材や医薬品なんかもまだ全然買っていないし、お土産だって何も買っていない。

ホテルもすでに日程分2人の名前で予約してあるのに、1人いなくなってしまったら、キャンセル料が発生するのではないか?

帰りの飛行機のチケットだってそうだ。

そういうことを考え始めたら、帰りたくないのにやむを得ず帰るしかなかったビクトルには申し訳ないのだが、全てを私に丸投げして一足先に帰ってしまったビクトルに、苛立ちが込み上げてきた。

そして、結局私たちは、スペインにいようがいまいが、シュエの呪縛からは逃れられないのかと絶望した。

 

そして目が覚めた。

夢で良かった。

でも、現実には絶対に起きてほしくないと、心底思った夢だった。

 

寝ても覚めても、シュエのことばかり考えてしまって、いつか私はおかしくなってしまうかもしれない。

シュエの周りには、きっと私の生霊がわんさかたかっているんじゃないだろうか。

そんなわけで(どんなわけで?)、今日は、我が家の夏について、話そうと思う。

 

スペインの学校は、6月が学年末で、9月から新学年の新学期になる。

我が家の子供たちが通う学校(幼、小、中の一貫校)の場合は、6月1日から下旬の終業日までと、新学期の9月いっぱいは、特別の時間割になり、授業は午前中のみになる。

我が家の子供たちは、給食サービスを受けているので、3時まで学校にいることができるが、それでも通常よりも2時間近く早く帰れる。

子供たちが3時に帰って来てから、ビクトルと私は昼食を取る。

(スペインの昼ご飯と夜ご飯は、日本のそれよりも遅い時間に始まる。)

学校で給食を食べて来たばかりとはいえ、良く言えば“食べ盛り”、悪く言えば“食べ物に目がない”子供たちに「あ~ら~、美味しそうな物食べてるねぇ…。」と見つめられながら食べなければならないのは、実にきまりが悪い。

私は、例えばインスタントラーメンとかサンドイッチとか、ちゃっちゃと手軽な物で済ませたいのだが、ビクトルは“1日の中で、昼食がいちばん大事”と思っている人なので、少し豪勢にしなければならない。

週の2~3回は、ありがたいことにビクトルが昼食を作ってくれるのだけど、そういう時は決まって、肉でも魚でもステーキの類なので、子供たちが羨ましがるのも当然だ。

だから、私はこの時期の自分たちの昼食の時間が、いちばん嫌いだ。

 

6月は期末テストの時期でもあり、ここで主要科目の落第点をいくつか取ってしまうと、子供たちは9月に進級することができず、留年だ。

今のところ成績トップの次男エクトルは、余裕で毎日テレビを見て、午後のひと時を優雅に過ごしているが、反面、先月の中間テストで2教科も落第点を取ってしまった長男アーロンは、罰としてDSの使用が禁止になり、毎日ビクトルの超スパルタ指導によって、何度も雷を落とされながら、時には逆ギレ、時には半ベソで、テスト勉強に励んでいる。

スペインでは、進級制度…とでも言うのだろうか、これは小学クラスからある。

最近は、スペイン語圏以外の移民の子も多いので、去年のエクトルの同級生のうち何人かは、スペイン語自体がままならず、今年も1年生だった。

アーロンの元同級生も、たしか1人か2人、中学クラスに上がれずに、小学6年生のクラスをもう1度受けている。

アーロンの元同級生の場合は、言葉の問題というより学力の問題で、だ。

こういう制度が、良いのか悪いのかはわからないけれど、こうして日本の教育制度とは異なる国のシステムを目の当たりにすると、日本に生まれ、日本の教育制度の下に育つことができた私は、とりあえずラッキーだったと、つくづく思う。

 

6月下旬から、子供たちの夏休みが始まる。

今年の我が家は、小学クラスは、24日から。

中学クラスは、一足早く、22日からだそうだ。

昨年春に書き換えた、養育についての契約書によって、昨年から、子供たちの夏休み期間の親権は、6月30日までの間と、9月の新学期が始まるまでの1週間ちょっとは、通常のように、平日がビクトル、週末がシュエになる。

7月と8月は、丸々1ヵ月間ずつ、ビクトルかシュエが交代して受け持つのだが、奇数の年はビクトルが、偶数の年はシュエが、7月か8月か、子供たちと一緒にいられる月を選べるようになっている。

昨年は、2015年で奇数の年だったので、ビクトルに選べる権利があり、7月に親権を持つことを選んだ。

7月は、子供たちの学校含め、たくさんの学校や施設でサマースクールを開催する。

どうせ家にいればゴロゴロして、ブクブク太るだけだと言って、子供たちをサマースクールに参加させた。

また、8月は、日本のお盆に合わせて、私を日本へ里帰りさせたいこともあったので、7月を選んだのだそうだ。

 

そして、2016年、偶数の今年は、シュエが選ぶ年だ。

予想はしていたが、シュエは7月に親権を持つことを選んだ。

おそらくシュエは、去年ビクトルが子供たちをサマースクールに通わせたのを、根に持っているのかもしれない。

なぜなら、ビクトルは去年、子供たちの養育費を振り込んでいる、ビクトルとシュエの共通口座から、サマースクールの学費を“教育費”として引き落としたからだ。

それに、8月は、サマースクールはほとんどやっていないので、ビクトルにこれ以上変な出費をさせたくない目的と、とにかくビクトルに朝から晩まで毎日、子供たちの面倒を見させたいという目論みもあるのだろう。

今のところ子供たちは、母親との7月の予定については「知らない。」と言っているが、なんなら、今度はシュエが子供たちをサマースクールに通わせ、共通口座から学費を引き落とす可能性も、大いにあり得る。

 

ま、そういうネガティブなことを考え出したらキリがないのだけれど、そういうわけで、今年の私の里帰りは、来月、7月になった。

なので、実は今、バタバタと日本行きの支度をしているところだ。

だから、冒頭に書いたような、変な夢も見るわけだ。

最近の夢には、日本の家族から友人から、果ては、もうずいぶん会っていない、小学校や中学校時代のクラスメートやら、昔の上司やら、総出演だ。

 

今のところ、里帰りは、毎年ビクトルも一緒に日本へ行く。

たった1カ月とはいえ、私とビクトルが2人で同時に遠出をするとなると、シュエや子供たちの問題の他にも、もう1つ大事な問題がある。

それは、ママ(=義母)のことだ。

「ビクトルも一緒に日本に行くか、行かないか」については、私とビクトルの間で常に議題に上がる案件だ。

でも、おかげさまで今のところ、ママは大きな病気もケガもしておらず、元気だし、ゴミ出しや、食料品、日用品を定期的に買って届けてくれる人が必要だけど、幸いなことに、昨年もそして今年も、そういった高齢者のお世話をすることを生業とする友人が引き受けてくれた。

さらにこの友人は、我が家のもう1匹の息子、猫の助の世話もしてくれることになっている。

それに今年は、甥っ子のエステバンも、私たちが留守の間、ママの様子を見に行ってくれるそうで、今年もまた、こうして、ママの健康と、ありがたい友人や甥っ子のおかげで、ビクトルも日本へ行ける。

 

私とビクトルが日本に旅立つ前に、私たちはいつもママの家に行って、いろいろと準備をする。

まずは、ママの服を着替えさせて、汚れている服や下着をすべて洗濯する。

そして、家の中の掃除。

我が家のベランダで育てている、ローズマリーの鉢植えも、ママの家に持って行って、ママに…というか、ママのお世話をしてくれる友人に世話をお願いする。

それから、もう1つ大事なこと。

それは、家の中のあらゆる場所に、置き手紙を残すことだ。

ママはもういろいろなことを覚えていられないので、こうしてたくさん手紙を残して、ビクトルと私がしばらく留守にすることを忘れないでもらうためだ。

「ママ、今、僕と梅子は日本に旅行中です。留守の間、僕たちの友人の〇〇〇という人が、毎日ママを訪ねて来るから、どうか驚かないで。何か困ったことがあったら、〇〇〇に電話をしてね。電話番号は、〇〇〇-〇〇〇-〇〇〇です。」

…と、置手紙の内容はこんな感じだ。

こういった手紙は、電話の傍にも置いておく。

私たちが留守にしていることを忘れてしまったママが、我が家に電話をかけてきて、「誰も出ない。どうしたんだろうか。」と心配させないためだ。

 

毎年やっていることなんだけど、日本滞在中は、毎日ほぼ決まった時間に、ビクトルがママに電話をする。

電話では毎回、今自分たちが日本にいることを伝え、変わりはないかを確認する。

そして、「また明日のこの時間に、電話をするからね。」と言って、電話を終える。

 

日本に里帰りすることは、私にとってももちろんだが、ビクトルにとっても、大事な息抜きの瞬間だ。

だから、いつも、スペインに帰らねばならない日が近づいてくると、私もビクトルも大きな溜息をつき始める。笑。

 

今年の夏は、日本から帰ってきたら、8月から子供たちとの1ヵ月間がある。

そのためにも、来月は日本でたっぷり英気を養わねば!

吉牛食うぞー!

ラーメン食うぞー!

卵かけご飯と、納豆ご飯と、明太子ご飯もたらふく食うぞー!

 

 

■本記事のタイトルは、映画「夏の夜の夢」(2015年公開、アメリカ)をモジって使わせていただきました。
記事の内容と映画は、一切関係ありません。