梅子のスペイン暇つぶし劇場

毒を吐きますので、ご気分の優れない方はご来場をご遠慮ください。

裁きは終りぬ ~反撃編~ 1

※本シリーズは、現在進行形の出来事を提供しているため、だいぶシリーズが続いております。

尚、前回までの記事につきましては、以下のリンク先をご参照ください。

 

前回までのお話「裁きは終りぬ ~決戦編~ 3」は、コチラ

 

 

「生活スタイルが変わったから。」という、前妻シュエからの要望で、昨年の春、子供たちの養育についての契約書を書き換えたものの、書き換えた直後から、また元の海外飛びまくりのキャリアウーマン生活に戻ったシュエ。

彼女のご機嫌次第で、留守中に子供たちの面倒は誰が見るのかが決まるような、振り回されまくりの1年を経て、堪忍袋の緒なんぞとうの昔に切れに切れまくって、今じゃ切れる物もないビクトルが、満を持して弁護士に相談。

bro-faxという法的書面を使って、シュエの尻を引っ叩くことにした。

 

さて、そのbro-faxだが、水曜日に弁護士に「送ってくれ」と頼んだものの、実際に弁護士が送ったのは木曜日だった。

その木曜日に、たまたまシュエからこれまたどうでもいいようなメールが届き、てっきりシュエがbro-faxを受け取ったと勘違いしたビクトルと私は、とてつもない緊張感で半日を過ごした。

が、それは取り越し苦労に終わった。

bro-faxがシュエの手元に届いたのは、翌金曜の午前中だった。

 

金曜日の午前中。

私とビクトルは、仕事仲間のオフィスにいた。

その後、近くにある中古DVD屋でビクトルがいくつかDVDを買って、次に市場に行って食材を買った。

買い物の後、カフェに立ち寄り、一休みしていると、ビクトルの携帯に不在着信が1件あることに気が付いた。

電話の主は、シュエ。

…ではなく、シュエの夫、マックスからだった。

きっと、シュエがbro-faxを受け取って、「訴状だ!訴状だ!また訴えられた!」とでも半狂乱になって話にならないから、「あれは何ですかね?」と、冷静に聞きたくて電話してきたんだろうと、予想はできた。

早速ビクトルが、マックスに電話をかけてみた。

でもその時、マックスは運転中だったようで、「10分後にかけ直します。」と言われ、電話はあっさり終わってしまった。

 

その10分が長かった。

心理的に長かったのではなくて、物理的に。

この日は曇りで風もあり、少し肌寒い日だった。

カフェのテラス席にいた私たちは、凍えながら電話を待った。

待っている間に、マックスに話すべきことを2人で話し合った。

もう話し合うことが尽きても、マックスから電話はかかってこなかった。

カフェオレを飲み終えても、かかってこなかった。

痺れを切らしたビクトルがトイレに席を立っても、かかってこなかった。

「家に着いて、きっとシュエに捕まってるんだろう。」私たちはそう話していた。

2杯目に注文した、熱いジャスミンティーがテーブルに届いた時、ようやっとマックスから電話がきた。

マックスは、「今、子供たちの学校の前に車を駐車して、子供たちを待っているところです。」と言った。

相変わらずシュエの召使いで、ご苦労なことだ。

 

電話の要件はやはり、予想通りbro-faxの件で、「あれは何ですか?」というものだった。

マックスの話によると、これまた予想通り、bro-faxを受け取ったシュエは、「訴状だ!訴状だ!」とパニックになって、外出中だったマックスに電話をかけてよこしたそうだ。

「僕はまだその書面を見ていないのですが、シュエは一体どんな書面をあなたから受け取ったのかと思いまして…。」と、マックスは言っていた。

「去年の裁判で、結構な金額支払わされたんで、また裁判か!と、正直ちょっと面喰ってしまって…。」とも言っていた。

 

去年の契約書書き換えの際、話がこじれにこじれ、最終的にビクトルは訴状を出して裁判に持ち込んだ。

その時、ビクトルも弁護士費用でそれ相応にお金がかかったが、この時シュエは、ビクトルが支払った金額の倍以上を自身の弁護士に請求されていた。

これは、後でシュエがビクトルに愚痴ったことがあってので、私たちはシュエが支払った金額を知っているのだ。

ちなみに話すと、シュエがビクトルに話した金額と、マックスに話していた金額には、日本円で6万円ほどの誤差があって、マックスは私たちが知っている金額よりも安い金額を言っていた。

シュエがビクトルに見栄…というかオーバーに金額を言ったのか、はたまたマックスには本当の金額は言えなかったのかは、私たちには知る由がないが…。

 

「心配しないでください。訴状じゃありませんよ。法的な書面で彼女に苦情を言っただけです。でも、彼女の返事次第では、次は本当に訴状を送ることになるかもしれませんけど。」

そう言って、ビクトルは、bro-faxに書いた内容を簡単にマックスに説明した。

マックスは、「わかりました。家に帰ったら早速読んでみて、シュエにもよく言って聞かせます。彼女、とにかく訴状訴状!って、話にならなくて。家に帰る前に、あなたに話が聞けてよかった。」と話した。

 

週末の間、シュエから怒りのメールが来るかと思っていたのだけれど、シュエからはまったく連絡はなかった。

日曜の夜、子供たちが帰って来る時は、おそらくマックスがシュエの代わりに子供たちをゲートまで連れて来るだろうと思っていたが、それもはずれた。

シュエが直々に子供たちを連れてきた。

その時にシャウトしてくれるかと思ったが、それも起こらなかった。

この日、せっかくビクトルの甥っ子エステバンに来てもらっていたのに、無駄足になってしまった。

ま、何もないのはいいことなのだけれど。

 

子供たちを家の中に入れると、長男のアーロンがビクトルに聞いた。

「ママに何か手紙でも送った?」と。

私たち大人組は、一瞬ドキッとしてしまった。

「そうか、お前知ってるのか。うん、そうだよ。クレームの手紙を送った。」とビクトルが話すと、「やっぱりそうか~。ママがパパのこと本当にしつこい人だって言ってた。」と、アーロンが言った。

この言葉にカチンときたビクトルは、「おいおい、しつこいのはパパじゃないぞ。ママの方だ。何度言ってもわかってくれないから、苦情を言ったまでだ。」とアーロンに噛み付きかけたが、アーロンは「知ってる、知ってる~。そんなことだろうと思ってたよ。」と、余裕で受け流していた。

 

こうして、とりあえず、緊張の週末は終わった。

あとはシュエがビクトルの弁護士に返事のメールをしてくれるかどうかを待つだけだ。

シュエが返事をしなければならない期限は5日間。

金曜日にbro-faxを受け取ったので、翌水曜日がタイムリミットだ。

その間に、果たしてシュエは弁護士に返事をしてくれるだろうか。

返事をしたとしても、果たして素直に「はい、わかりました。」と言ってくれるだろうか。

「その条件を呑む代わりに、この条件を呑んでほしい。」とか、まーた訳のわからない交渉をし始めたりしないだろうか。

弁護士に返事をしないで、ビクトルに怒りのメールを送ってくるんじゃないだろうか…。

bro-faxという、強烈な“しっぺ”を喰らわせたものの、シュエのことだ、それこそさらに強烈な“しっぺ返し”をしてくるんじゃないか、私は気が気ではなかった。

 

 

■本記事シリーズのタイトルは、映画「裁きは終りぬ」(1950年公開、フランス)をモジることなくそのまんま使わせていただきました。
本シリーズの内容と映画は、一切関係ありません。