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梅子のスペイン暇つぶし劇場

毒を吐きますので、ご気分の優れない方はご来場をご遠慮ください。

裁きは終りぬ ~決戦編~ 2

前回のお話「裁きは終りぬ ~決戦編~ 1」は、コチラ

 

 

ビクトルの弁護士名義で、シュエにbro-faxという、法的な文書を送ることに決めたビクトル。

シュエに抗議と警告をするポイントは3つだ。

 

ポイント①

最近の海外出張の頻度が、度が過ぎている。

そもそも昨年、契約書を書き直したのは、もうそんなに海外に出なくなったからではなかったのか。

 

ポイント②

海外出張しなければならないのであれば、期間が7日間未満であろうとも、出発日の1週間前までに毎度ビクトルにその旨を報告してもらいたい。

さらに、報告する際には、日程などが記載された会社からの正式な書面を添付すること。

 

→ 昨年に契約書を書き換えてから1年の間に、シュエは5回、海外出張に出かけた。

そのうちの最初の2回は、会社からの書面をビクトルにメールで送ってくれたのだが、それ以降の3回は送ってこなくなった。

また、1回は、「日程が1週間で短かったから。」という後付けの理由で、シュエはビクトルに報告なく出張に出かけたことがあった。

ちなみにこの時、シュエは「日程は1週間」と言ったが、実際はほぼ2週間の出張だった。

さらに最近シュエは、「どうせ子供たちは、土日に中国語のレッスンがあるんだから、マックスが面倒を見なけりゃならないし、ビクトルには迷惑をかけてないんだから、出張があったって別に報告する必要もないでしょう?」と言い出すようにもなっていた。

 

ポイント③

海外出張中に、シュエ自身の親権日が重なる場合は、その日々を子供たちは誰と過ごすのか、まずはシュエ自身で解決策を見つけてもらいたい。

その上で、ビクトルに提案すること。

ビクトルには、子供たちをシュエの家族に託すか、ビクトル家族と共に過ごすかを選ぶ権利があるので、ビクトルに判断を仰がなければならない。

 

→ 本来、新・契約書には「シュエが仕事で国外にいる時は、親権はビクトルにある。」という1文がある。

この1文があるからこそシュエは、海外出張になると、まるで武器のようにこの機会を利用した。

ビクトルに子供たちと過ごさせたくなければ、「私の夫マックスが面倒を見てくれるから、問題ありませんことよ。」と言い、ビクトルに何か仕返しをしたい時は「アンタが子供たちの面倒を見なさいよ!」と言い、強い立場になった彼女の決定を、いつも押し付けられていた。

私たち夫婦だけでなく夫マックスさえも、シュエにとっては完璧に都合の良いベビーシッターだ。

そして私たちも夫婦も、この1文があるからこそ、シュエがいない時は、ビクトルが子供たちの面倒を見る義務があると思っていたので、強気になれずにいた。

だから、彼女が海外出張だと言うと、誰が子供たちの面倒を見るのか、ギリギリまでハラハラして、下手をすれば週末の予定を変更しなければならなかった。

しかし、ビクトルが弁護士にこの問題を話すと、弁護士の見解は違っていた。

ビクトルは、そもそもの自身の親権日を全うしているが、シュエは全うしていない。

それどころか彼女は、ビクトルの親権日ではない日、ビクトルのプライベートの日を侵害しているわけだ。

たしかに、契約書には「シュエが国外にいる時は、子供の親権はビクトルにある。」と書かれているが、同時に、ビクトルにはプライベートの時間を尊重する権利があるので、シュエがいない時、子供たちと共に週末を過ごしたいのであれば過ごしたいと言う権利があり、そうでなければ、拒否する権利があるということだった。

「シュエが国外にいる時、それがシュエの親権日の場合、ビクトルには子供たちの面倒を見ることができる“権利”はあるけれど、“義務”ではないのよ。」と、弁護士は言った。

“ものは言いよう”と言ってしまえばそれまでだが、この、弁護士の言葉が、今まで詰まりに詰まっていた、私たちの胸の内の大きなつかえを取り除いてくれた。

そしてどれだけ私たちに大きな励みとなったか、言うまでもない。

 

さらに、以上3つのポイントについて、承諾するか否かを、シュエはビクトルの弁護士に返事をしなければならないと付け加えた。

期限は、文書を受け取ってから5日以内。

「承諾できない場合、期限内に返事がない場合は、法的に次の手段に出る。」と締めくくった。

 

こうして、出来上がったbro-faxだが、次なる問題は、“どのタイミングで送るか”だった。

ビクトルが弁護士と話し合って文章を作っていた頃、シュエは末の乳飲み子フアンを連れて約1ヵ月間の海外出張中だった。

「5月にもう一度出張があるかもしれない。」と、以前シュエから聞いてはいたが、「あるかもしれない」であって、ないかもしれない。

もし、この後しばらく出張に行かない所にbro-faxを送っても、いまいち効果がない。

変な話だが、ビクトルと私は、5月に出張があることを祈った。

ベストなタイミングは、5月の出張の直前しかなかった。

そして、私たちの祈りが届いたのか、そのベストなタイミングはやってきた。

 

シュエにbro-faxを送る日は、実は、前もって“この日!”とは決めていなかった。

「できるだけシュエにショックを与えて、ぐうの音も出させない日を選ばなくては。」と、ビクトルは慎重になっていた。

しかし、ひょんな偶然というか、その日は突然やって来た、そんな感じだった。

 

前回記事にした、「マックスの母親の携帯紛失事件」の後、シュエは、引き続きビクトルとメールでやりとりをしていた。

3か月ごとにビクトルがシュエに報告している、共通口座(ビクトルとシュエが毎月振り込んでいる子供たちの養育費)からの引き落としの明細についてだった。

シュエは、ビクトルが引き落としたいくつかの明細について、執拗に質問していた。

昨年のクリスマス発表会の衣装として、とあるブランドから買った洋服を、「あのブランドに子供服なんてあったかしら?」というものと、もう1つは、子供たちが冬の間、登下校の時に使っていたマフラーが「これは普段使いもできるんだから、学校に関する物じゃないわよね?」というクレームだった。

キッズブランドの件については、毎週日曜の夜は、新品の洋服を子供たちに着せて返してよこすような“ファッションリーダー”のシュエが、自身の“庭”の1つでもあるあのブランドに、キッズ物があることを知らないわけがない。

マフラーの質問についても、特にエクトルは、未だに毎日登校する時に使っているし、そのマフラーを付けて毎週金曜日はシュエの家にも行っているのだから、シュエが知らないはずがない。

第一、マフラーの件を「普段でも使ってるんじゃ?」とツッコむのなら、なぜ、クリスマス発表会の時の服のことはツッコまない?

あれこそ、発表会が終われば学校に来て行くことはできないし、家で普段使いとして使える服なのに。

「マフラー代を引き落とせるって言うのなら、わかったわ。じゃあ、中国語レッスンの時に子供たちがサンドイッチを持って行きたいって言ってるから、サンドイッチ代を引き落としてもいいってことよね?子供たちにサッカーをさせるのに、少し遠いサッカー場に車で連れて行ったことがあるから、その時のガソリン代も引き落としていいのよね?」

鬼の首でも取ったかのように、シュエのメールにはそう書かれていた。

時々、シュエのことがわからなくなる。

彼女は頭が良いのか?馬鹿なのか?

 

そしてこの時、シュエは「私はアンタと違って、包み隠さず正しい情報を伝えます。」と言わんばかりに、5月の海外出張の話を持ち出してきた。

5月のはじめに2週間ほどで、出発日と帰って来る日が書かれていた。

「会社からの書面は、後で送る。」とし、最後に「子供たちは、アンタと一緒に過ごさせます。」と、“とどめ”を刺してきた。

この、シュエからの“とどめ”を受けて、bro-faxをいつ送るか、ビクトルの決心が固まった。

翌日、ビクトルはメールをチェックして、シュエからまだ会社の書面が届いていないことを確認すると、早速弁護士に電話をかけ、「今日、bro-faxを送ってほしい。」と頼んだ。

bro-faxは、1日ほどで届く。

ビクトルが弁護士に頼んだ日は、水曜日。

弁護士が今日中にbro-faxを送ってくれれば、シュエが受け取るのは明日、木曜日だ。

弁護士は、「了解。bro-faxを送ったら連絡するわ。」と言った。

 

“決戦の火蓋が切って落とされた”とは、こういうことを言うんだなと、私はぼんやりと考えていた。

 シュエがbro-faxを受け取ったら、一体何が起こるんだろう…。

私たち夫婦に緊張が走った。

 

 

■本記事シリーズのタイトルは、映画「裁きは終りぬ」(1950年公開、フランス)をモジることなくそのまんま使わせていただきました。
本シリーズの内容と映画は、一切関係ありません。