読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

梅子のスペイン暇つぶし劇場

毒を吐きますので、ご気分の優れない方はご来場をご遠慮ください。

アーロンの偽証 中編

前回のお話は、コチラ

 

 

我が家の次男エクトルのシラミ問題が解決しようとしていた、月曜日の夕方、何度も我が家に電話をかけてきていたのは、やはり、前妻シュエだった。

 

ビクトルと子供たちが床屋へ行く前に、ビクトルはシュエからメールが届いていることに気が付いた。

メールを読んでいる最中に、シュエからであろう1回目の電話がかかってきたので、その時、キッチンにいた私や子供たちに向かって、ビクトルは「電話を取るな!」と叫んだ。

まだ事態をよく把握していないうちに、シュエを子供たちに接触させたくなかったためだ。

 

シュエからのメールには、前日の日曜日の夜から、シュエの現夫マックスの母親の携帯がなくなったことが書かれていた。

マックスの兄弟家族やら、親戚やらが、今朝からマックスの実家(母親の家)に集まって、(シュエとマックスは、仕事があったので携帯探しに参加していないと、しっかり言い訳も書いてあった。)皆で総出で家中をひっくり返して探しているが、まだ見つかっていない。

日曜日、子供たち含むシュエ家族がマックスの実家に滞在していた時、アーロンが中国語レッスンのクラスメートを何人か家に呼んで遊んでいたから、その中の誰かが携帯を盗んだか隠したのではないかと、今は皆がアーロンとその友人たちのことを怪しんでいるという話が書かれていた。

 

アーロンがマックスの実家に招いた中国語レッスンのクラスメートは2人で、いずれも中国人の子供だそうだ。

「中国人なら、平気で嘘もつくし、盗みをはたらくに違いないと思われて、こういうの本当にうんざりする!」と、シュエのメールには書かれていた。

私は思わず、「ププッ。自分のこと棚に上げてよく言うわ!」と、吹き出した。

 

シュエからのメールによると、「自分の息子のことはよくわかっている。アーロンがきっと何か知ってると思うから、電話でアーロンと話をさせてほしい。」とのことだった。

だから、あんなにしつこく電話してきてたんだと、やっと謎が解けた。

 

「アーロンの嘘つき問題は、あなたも私も、昔から本当に頭を悩ませている問題でしょう?あの子は、私たちの関係が良くなくて、コミュニケーションがうまく取れていないのをよく知ってるから、それを利用してるのよ!あの子のために、ここは私たちが親として密に連携を取って、この問題を一緒に解決しましょう!」

シュエのメールは、こう締めくくられていた。

 

たしかに、アーロンが母親やマックスの家族を騙しているのだとしたら、これは、我々側にとっても目をつむるわけにはいかない問題だ。

アーロンは、次男エクトルとは違い、温厚で、誰からも好かれるタイプ。

ただ、彼の最大の短所は、平気で誰にでも嘘をつくことだ。

 

例えば、期末テスト期間中に、テストの日程と範囲を面倒くさがって連絡帳に書いて来ず、ビクトルに叱られてようやく白状し、ビクトルが付き添って一夜漬けで勉強して、「よし!テスト頑張れよ!」と送り出したものの、その日の放課後、たまたまアーロンのクラスメートに会って、テストの話を聞くと、なんと!

もうその教科のテストは、前の日(アーロンがビクトルに叱られて一夜漬けをした日)にすでに終わっていて、しかも前の晩に一夜漬けして勉強したテスト範囲は、今回のテスト範囲ではなく、全然昔のテスト範囲だったことが発覚。

そしてビクトル大噴火!

…なーんてことが、もう、1度や2度の話ではない。

 

学期末の、通知表のスコアが決定される頃になると、毎年のように担任の先生からビクトルに呼び出しがあり、「このままでは、来学期の成績(もしくは来年度の進級)は危ういです…。」と言われるのが、もはやお決まりのパターンになっている。

 

週末を利用しないと終わらないような量の多い宿題、週末明けの月曜日が締切りの宿題なんかがある時は、「パパ、任せてよ!週末にママの家で終わらせて来るからさ!」と、ビクトルに調子のいいことを言っておきながら、日曜の夜に帰って来た時に、宿題を終わらせていないことが発覚。

ビクトルが叱って「宿題があるって言ったんだけど、ママが〇〇に出かけるって言い出して、みんなで出かけたからやる暇がなかった…。」と白状するも、「よし!じゃあ今からやれ!カバンから宿題を出せ!」と言うと、宿題はカバンの中ではなく、我が家に置きっぱなし、もしくは実は学校から持って帰って来ていなかったことがさらに発覚。

さらにさらに、ビクトルがシュエにメールで確認すると、アーロンはシュエに「この週末は宿題はない。」と、嘘をついていたことが発覚。

ビクトル、シュエ、共に大噴火!!

…なーんてことも、1度や2度の話ではない。

 

だから、テストの時期や、週明け提出必須の宿題がある時は、ビクトルは否が応でもシュエと連携を取って、徹底的にアーロンのテスト勉強やら宿題の監視をしなければならない。

宿題やテストに関するような嘘は、見過ごすとそのまま学校の成績に響き、下手をすれば留年の恐れがあるので(スペインでは小学校から留年があり得る。)、ビクトルもシュエも、それだけは何としても阻止したい。

そのためには、いくら日頃の関係が最悪であろうとも、こればかりは互いに協力し合わなければならなかった。

 

今回の、マックスの母親の携帯紛失事件は、携帯が紛失したこと自体については、申し訳ないが、我が家にはまったく関係のない話だ。

シュエは、アーロンの問題にかこつけて、ビクトルに協力を依頼してきた。

アーロンの嘘つきには、本当に頭を悩ませるが、でも今回の携帯紛失事件は、まだ本当にアーロンが犯人という証拠はどこにもない。

はっきり言ってよその家の問題に、ビクトルを巻き込むシュエには辟易した。

 

ビクトルは、シュエからのこのメールを読んだ後に、子供たちと床屋へ出かけた。

彼の中で、じっくりこの件について介入すべきか否か、考えたかったのだろう。

だから、私には詳しく話さずに出かけたのだと思う。

 

床屋から帰って来て、息つく間もなく、シュエから電話がかかってきた。

ビクトルは、アーロンにシュエと話をさせた。

アーロンがシュエと話している様子を、リビングのドアにもたれて監視していたのは、単に、アーロンがシュエと何を話しているか聞き耳を立てるためではなく、アーロンが嘘をついている素振りはないかを窺っていたのだった。

ビクトルの目には、この時のアーロンの様子は、とてもリラックスした状態で、声を荒げたり動揺するような素振りはなかったように見えたそうだ。

 

これは、私は知らなかったのだが、ビクトルの話では、電話の終わりの方で、アーロンが「そういえば、僕が友達と遊んでいる時に、エクトルがマックスのママの携帯らしき物を持っているのを見かけた。その時、エクトルはトイレの方に向かっていたから、きっと洗面台の引き出しの中にでもあるんじゃないかな?」と話していたそうだ。

 

シュエからの電話を終えると、アーロンはビクトルに連れられて、スーパーへ買い物へ行った。

買い物へ出かけている間、ビクトルはアーロンに、日曜日の出来事をアーロン側からの目線で詳しく聞いたそうだ。

そして最後に、「本当にお前は何もしていないんだな?パパの目を見て答えなさい。」と聞くと、アーロンは、まっすぐビクトルの目を見て、「僕は何もしていない。携帯を隠したのは、おそらくエクトルの仕業だ。」と言ったらしい。

ビクトルは、アーロンのこの言葉を信じることにした。

だからと言って、一方で、エクトルがそんな悪いことをするだろうか?と、疑問を抱きながら。

 

ビクトルとアーロンが買い物から帰って来ると、シュエからまたメールが届いていたそうだ。

アーロンが「見た。」と言っていたとおり、マックスの母親の携帯は、バスルームの洗面台の引き出しの中から見つかったらしい。

シュエのメールには、こう書かれていた。

 

「アーロンと電話で話した時に、カマをかけたの。“こんなに見つからないようでは、警察を呼ぶしかないと皆が言っている。もし何か知っているなら、今のうちに言いなさい。今が最後のチャンスよ。”とね。そしたら、アーロンは、“エクトルがバスルームに隠したみたい。”と言ったけど、私はやっぱりアーロンが隠したと思う。エクトルがそんなことをするはずがない。」

 

アーロンを信じることにしたビクトルは、この、シュエからのメールに少し腹を立てていた。

「自分の息子をここまで信じない母親って、どうなんだろう?すごいと思わないか?」と、私に言った。

 

ようやく今回の事件の真相がハッキリした私は、もう一度今日の午後の出来事を振り返っていた。

そして、いくつかの違和感に気が付いた。

でも、それについては、ビクトルにはまだ言わないことにした。

ビクトルに話す前に、解かなければならない“謎”がまだ少しあると思った。

 

 

■本シリーズのタイトルは、映画「ソロモンの偽証」(2015年公開、日本)をモジって使わせていただきました。
記事の内容と映画は、一切関係ありません。