読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

梅子のスペイン暇つぶし劇場

毒を吐きますので、ご気分の優れない方はご来場をご遠慮ください。

世界で一番誰が好き?

子供たちの学校のユニフォームは、体育がある日は、学校のロゴが入っている指定の運動着とスニーカーで、それ以外の日は、これまた学校のロゴ入りのポロシャツとセーターにスラックス、そしてローファーだ。

長男アーロンも次男エクトルも、同じタイミングでローファーがボロボロになってきたので、先週木曜の夕方、2人を連れて靴を買いに出かけた。

 

出かける前に、エクトルが「お腹空いた。」と言いだした。

これから出かけると、夕飯を作る時間も遅くなるので、私はイチゴジャムを塗ったサンドイッチを作って、子供たちに食べさせることにした。

エクトルは始め、「果物以外ね!ビスケットは学校で食べたからいらない!」とか、なんやかんや注文をつけていたが、ハッキリと「コレが食べたい!」とは言わなかったので、私はサンドイッチを作ることにしたのだけども、本当はスナック菓子を食べたかったらしく、私がサンドイッチを作っているのを見つけると、「え~、サンドイッチ~?」と文句を言い始めた。

 

「あのさー!じゃあ何が食べたかったのよ?アレはイヤ~、コレもイヤ~って言ってたけど、サンドイッチがイヤとは聞いてませんでしたけどー?」と、私たちは口論を始めた。

するとアーロンがやって来て、「あ!サンドイッチ!梅子、ありがとう!」と言って、サンドイッチをパクッと食べた。

「ほらー!アーロンを見なさーい。文句言ってるのはエクトルだけでーす。アーロンは良い子だなぁ~。」と、私がとどめを刺すと、エクトルはふてくされながら、渋々サンドイッチを食べ始めた。

 

こんなふうに、出かける前はご機嫌ななめなエクトルだったが、帰宅した頃には、機嫌はすっかり直っていた。

 

夕飯を食べ終わってから、ビクトルが「みんなでDVDを見よう!」と言い出したのだが、エクトルは日課の30分読書がまだ残っていたし、その後、ビクトルのパソコンでYoutubeを見たいと言って断った。

毎週火曜と木曜は、エクトルがパソコンを使える日だ。

私も少しパソコンをいじりたかったので、断った。

「なんだよー!」と、ビクトルがぶすくれたが、アーロンが「パパ、僕は一緒にDVDを見るよ!」と、ビクトルをなだめた。

 

というわけで、ビクトルとアーロンは、リビングでDVD観賞、エクトルはキッチンで読書を始めた。

私は洗い物を片付けると、エクトルに付き合って一緒に読書することにした。

エクトルは、私も一緒に読書することが嬉しい様子だった。

飼っている猫の、猫の助がやって来て、空いている椅子の上で眠り始めた。

穏やかな時間が流れた。

 

30分の残り5分ぐらいになった時、そろそろ読書に飽きてきたエクトルが、時折リビングから聞こえてくる映画のBGMに反応して、「変な音楽!今日はパソコンの日なのに、パパはいっつも忘れて、映画見よう!とか言うから最悪ー。」と、冗談っぽく父親ビクトルの悪口を言い始めた。

「ホントだ。パパはいっつも忘れるねー。でもホントはパパ、アーロンだけじゃなくて、エクトルとも一緒にいたかったんじゃない?明日はアンタたちがママん家に行く日だし。」と、私が言うと、エクトルはまんざらでもないような、ちょっと照れくさいような顔をしながらも、「でも今日はパソコンの日だもん!」と言った。

 

ふと、思い出した。

1年前、やっぱり私がエクトルと2人きりでキッチンにいた時に、エクトルにある質問をしたことがあった。

あの時、私はエクトルの英語の宿題を手伝っていた。

私が英語で簡単な質問をして、エクトルがそれに答えていたのだが、脱線して、「梅子、僕に何か日本語で質問してみて。」と言い出した。

最初こそは、「今日は寒かった?暑かった?」なんて簡単な質問をしていたんだけど、ふと思い立って、こんな質問をしてみた。

 

「エクトルは、家族でいちばん誰が好き?」

 

エクトルが日本語をわかるはずがなく、結局毎回「今、日本語でこう言ったんだよ。」と説明していたのだが、この質問をした時は、私が日本語で何と質問したのか、正直に訳すべきか否か、躊躇した。

でもエクトルが「今何て言ったのー?」と何度も聞くので、正直に訳すことにした。

 

エクトルは少し考えて、「ママ。」と答えた。

 

ママ大好きっ子なので、予想はしていたが、でもいざそう言われると、モヤモヤした気持ちになった。

当時、ビクトルは前妻シュエと、子供たちの養育方法の契約書の件でもめていた時期だったので、モヤモヤするのはなおさらだった。

でも、どんなにひどかろうが悪かろうが、子供にとって母親の存在というのは、やっぱり絶対的な存在なんだなぁと、改めて思った。

 

「そっかー。ママが好きなのかー。すごく優しいから?」と、私が聞くと、エクトルは口をへの字に曲げて、“まぁまぁ”というジェスチャーをしながら、「そうでもないけど…。」と答えた。

そして、「誰がいちばん優しいかっていうと、ママより梅子の方が優しいんだけど、点数を付けるとしたら、ママが10点満点で、梅子は9点プラスで、もう少しって感じ。」と続けた。

その時私は「そっか。残念だなぁ。じゃあ、もう少し頑張ります!」と言って、この会話は終わった。

 

後でビクトルにこの話をすると、「1番に好きな人しか聞いてないよね?それ以上聞かなくて正解!2番目が僕じゃなくてマックスだったら、へこむわ…。」と、胸を撫で下ろしていた。

 

この出来事から1年たった今、エクトルは何と答えるのだろうと、ふと思った。

なんだかんだ言いつつも、やっぱりママが大好きなのは変わりないかな…と思った。

 

「ねぇ、覚えてる?昔さー、エクトルに“家族でいちばん誰が好き?”って聞いたことあったじゃん?」

エクトルは「うん。覚えてるよ。」と言った。

「あれからエクトルは少しお兄さんになったけど、今は誰がいちばん好き?変わりなし?」

エクトルは「う~ん…。」と少し考えて、「変わったー。」と答えた。

内心驚いた。

 

「ナンバーワンは…」と言いながら、エクトルは猫の助と私に、交互に人さし指を向けた。

マジか!私がランクインしてるのか?!

 

「じゃじゃーん!」と言って、エクトルは猫の助を指さした。

ちょっと拍子抜けした。

 

「え、えー?!猫の助ー?エクトル、猫の助好きだったっけー?いっつも怖がってるじゃん。」

動揺を隠せないのを笑ってごまかす。

「猫の助はねー、僕がいつもトイレに行くと一緒に入って来て、僕がおしっことかうんちが終わるまで待っててくれるの。僕がトイレで怖がらないように一緒にいてくれるから、優しいヤツなんだ。」と、エクトルが説明してくれた。

 

「なるほど~。では、第二位は?」

第一位が猫の助では、せっかく久しぶりにこの質問をした意味がない。

 

「第二位は、梅子。」

もうどうしようもなく恥ずかしいというような顔で、エクトルがボソボソッと早口に言った。

まるで告白でもされているようで、私まで思わず照れてしまったが、でも驚いた。

ママはどこに行った??

 

「あらま~!やったー!ありがとうございまーす!あれ?でも、ママはどこ行った?前はママが1番だったじゃん?」と聞くと、エクトルは「今は変わったの。」とあっけらかんと答え、「第三位も聞いてよ。」と催促した。

 

エクトルの、現在の好きな家族の順位は、以下だった。

第一位: 猫の助

第二位: 私

第三位: ビクトル

第四位: アーロン

第五位: シュエ

第六位: マックス

(※新しい弟、フアンの存在は、この時私もエクトルも忘れていた。)

 

一位の猫の助はペットなので、ランクから外すとしても、1年前に堂々の第一位だった母親シュエが、かなりランクダウンしていて驚いた。

それに、いつも厳しいビクトルに比べたら、シュエの夫マックスの方が優しいし、子供たちをたくさん楽しませてくれているはずなのに、「マックスは最下位。だってさー…。」と、エクトルは真顔でマックスの愚痴を言い始める始末。

本当に驚いた。

 

今、母親シュエが長期の海外出張に出かけてしまった反面、我が家では変わらずビクトルと私がいるという状況もまた、今回の順位の表れかもしれない。

夕方、出かける前に、私とエクトルは喧嘩をしたけれど、夜はこうして、2人で穏やかな時間を過ごしたことや、この話題を話す前に、「パパはエクトルと一緒にDVDを見たかったんじゃない?」と、私がエクトルの心理を誘導してしまった可能性も大いにあり得る。

 

だけど、その一方で、エクトルの性格は、そんなに柔いものじゃないのも知っている。

いくら楽しい思いをさせた後でも、「楽しかったけど、やっぱりママの家の方がいい。」とか、ビクトルに平気で言うようなヤツだ。

ビクトルが体調が悪くて寝込んでいる時だって、DSやパソコンを使っていいか聞きたいがために、「パパを起こしてきてよ!」とか平気で言うヤツだ。

そう考えると、今回のランク付けは、あながちエクトルの本音かもしれないとも思った。

 

 

読書の時間が終わり、私とエクトルは書斎に移動して、各々パソコンをいじり始めた。

猫の助も付いてきて、書斎のソファの上で毛づくろいを始めた。

それから1時間ほどたった後、ビクトルとアーロンがDVDを見終え、子供たちが寝る時間になった。

 

「さ、クリーム塗ろう。」と、私が、エクトルの額の傷跡用に保湿オイルと、手の肌荒れ用にヴァセリンを用意していると、「その前にマッサージしてよ~。」と、エクトルが甘えだした。

肩から足の裏まで一通りマッサージしても、「もうちょっと!」と、なかなかクリームを塗らせてもらえず、やっとクリームを塗れる頃には、「お前たち、いつまでも何やってんだ!」と、ビクトルに叱られたほどだった。

 

この日の夜の私とエクトルは、間違いなく、ラブラブだった。

 

 

■本記事のタイトルは、映画「世界で一番パパが好き!」(2004年公開、アメリカ)をモジって使わせていただきました。
記事の内容と映画は、一切関係ありません。