エクトル再び頭痛
今日のお話は、ご覧ください。タイトルのとおりです。
これからこの話を思い出して文章に起こすのかと思うとガッカリしちゃって、それだけで生気を吸い取られる気分ですが、頑張って書いていこうと思います。
はぁ~、やれやれ。
一昨日の日曜日は、あの、我が家のエントランスと路上での、“前妻シュエ・シャウト事件”が起きた翌週だった。
前日の土曜日に、たまたま甥っ子のエステバンが、留学先のベネチアから一時帰国しており、シャウト事件の話を聞いて、心配して日曜の夜に我が家に来てくれていた。
日曜日の夜、子供たちが我が家に帰って来た時、シュエはシャウトすることなく、おとなしく帰って行った。
我が家の次男エクトルも元気で、頭痛はなかった。
週末、シュエが子供たちに新しいフットサルのシューズを買ってくれたらしく、アーロンもエクトルも、その新しいシューズを履いていて、エステバンが来ていることも相まって、エステバンとも話したいし、新しいシューズも見せたいしで、子供たちはとにかく大はしゃぎだった。
翌、月曜日、子供たちは元気に学校へ行った。
ここまでだ。
我が家が平穏だったのは。
月曜日の放課後、エクトルを迎えに行くと、またあの苦虫噛み潰したような顔で現れた。
曰く、クラスメートの騒ぐ声で頭が痛くなったとのことだった。
家に着いたばかりの頃は、そんなに重症そうではなかったのだが、宿題は後回しにして、とりあえず昼寝をさせることにした。
ビクトルと話して、今回は鎮痛解熱剤のアピレタールではなくて、免疫力を高めるための、いわゆるサプリメントのようなシロップ(子供用)を、「特別な薬だ。」と偽って、エクトルに飲ませた。
最近エクトルは、頭痛が始まるとすぐにアピレタールを欲しがる。
小さいうちからそんなに頻繁に鎮痛剤を飲ませるのもどうなんだろうと、ビクトルも私も心配になってきたのだ。
幸い、彼は、薬やら手当されるのが好きな子供なので(ちなみに私もそういうのが好き)、サプリメントでも「特別な薬」とか言えば、その気になってくれると踏んだのだ。
でも結局、この計画は失敗した。
昼寝の後からだんだん重症になってきて、夕飯も食べず、夜になってもグズりはおさまらず、夜中に一度起こしてアピレタールを飲ませた。
ビクトルがアピレタールの瓶を持って来るのを見るなり、みるみるうちに穏やかな顔になり、飲んだ後は、グズりはピタッと止まり、熟睡した。
「完全に中毒だわ。」と、私とビクトルは笑うしかなかった。
エクトルを昼寝から起こして、フニフニ言いながらも宿題をさせている頃、私はエクトルに、週末をどう過ごしたかを聞いた。
ゲームの類は1日だけ、少し遊んだ程度で、ほとんどやらなかったと言った。
金曜の夜は、ビクトルからの言いつけを守って、夜の22時頃に就寝、翌朝は8時頃に起きた。
しかし、土曜の夜は、シュエが「来週から中国へ出張だから、あなたたちと過ごせるのは今夜が最後の夜。」とかなんとか言いだして、レストランへ食事に連れて行ってもらったらしい。
食事が終わったのが夜遅くで、帰宅してベッドに入ったのは、12時頃だったそうだ。
でも、翌朝は9時に起きたから、9時間は寝たと答えた。
私は次に、兄のアーロンを呼んで、同じ質問をした。
エクトルの言うとおり、エクトルはこの週末、ゲームをほとんどせず、金曜日にいたっては、いつもより早い時間にベッドに入り、平日と同じような時間帯に起きた。
土曜日は、レストランに行ったので、ベッドに入ったのは12時を過ぎた。
「でも、日曜の朝、エクトルはまーた早起きしたんだよ。7時頃。エクトルが起きた時、僕も一瞬目が覚めて、時計を見たら7時だったから覚えてる。」と、アーロンが言った。
「ウソ言うな!9時まで寝てたよ!!」と、エクトルがすかさず会話に入ってきて、泣き出した。
アーロンは、気にせず続けた。
「それからね、金曜日にすごいことがあったんだ。」
アーロンの話によると、金曜日の午後、シュエの夫マックスが、エクトルに日課の読書をさせた。
読書をしたくないエクトルがブウブウ言い始めたので、「20分でいい。」と言ったそうだ。
しかし、エクトルが読書にまったく集中しなかったので、怒ったマックスが「5分追加!」と告げた。
これにエクトルがブチ切れた。
2人の口論が始まり、その口論の中で、エクトルはマックスに「GILIPOLLAS!」、そして挙句の果てには「PUTO!」と言ったらしい。
Gilipollasは、先日の“シュエ・シャウト事件”ですでにお伝えしたように、スペイン語で「バカ、アホ」という意味。
Putoは、もっと最悪の悪口で、英語で言うところのbitch。
女性に向けては「puta」と言うのだが、「puto」なので、この場合は男性に向けての悪口だ。
もし我が家で、子供たちがこれらの言葉を使おうものなら、すぐさまビクトルの最大級の雷が落ちるレベルの、いわば禁句だ。
とうとうそんな汚い言葉で、大人のマックスに生意気を言うようになったかと、ただただ呆然とした。
エクトルは「違う!アーロン黙れ!」と、アーロンの話を遮ろうとしたが、私はアーロンに話を続けさせた。
エクトルとマックスの喧嘩は夜まで続いたそうだ。
その間、シュエは何をしていたのかというと、美容室に髪を切りに行っていて、留守だった。
シュエが帰宅すると、マックスがすぐに、エクトルの悪行をシュエに伝えたのだが、あろうことかシュエは、エクトルを叱るだけでなく、「私の息子をむやみに叱るな!」と、夫マックスまでも叱り飛ばした。
「その後、意味がわかんないんだけど、突然ママが泣きだしてさー。すごかったよ。」と、アーロンはまるで他人事のように笑って言った。
シュエは2人を叱り、泣くだけ泣いて、夕飯も作らずそのまま就寝。
残されたマックスとアーロンが夕飯を作って、男3人で遅い夕飯を食べたそうだ。
翌、土曜日も、いちいちつまらないことでエクトルが刃向かい、マックスと口論を繰り返したという。
なんて週末だ。
あんまりガッカリして、膝から崩れ落ちそうだった。
「あのさ、エクトル。ちょっと聞け。アンタ、毎週こうやって頭痛いって苦しんでるけど、原因が何か、お医者さんにもパパが言ってるのと同じこと言われたよね?」
エクトルが、私の殺気のようなものに気が付いて、おとなしくなった。
「アンタが頭痛いって言うと、いっつもパパとか私がお薬あげたり、おでこにジェルシート貼ったりして、お世話をするよね?それでも今日みたいに、辛い時は辛いよね?」
「うん。」と、エクトルが小さくうなずく。
額に貼っているジェルシートが、半分剥がれ落ちて、おもしろい顔になっている。
隣りの部屋で、私と子供たちのやり取りをずっと聞いていたビクトルがやって来て、「梅子、これ以上言うな。」と、止めに入ったが、「いいや、今日ばかりは言わせてもらう!」と、私はビクトルの制止を遮った。
「アンタが頭痛で苦しむと、パパも私も、治してあげなくちゃ!って、いろいろ努力してるわけよ。頭が痛くない時でも、アンタが頭痛くならないように、パソコンの時間決めたり、早く寝なさいって言って、努力してるのね?でもさ、アンタはどうなの?ママの家ではやりたい放題やってるみたいだけど、何か頑張ってることってある?」
エクトルが沈黙する。
「何もないよね?こんなに毎週頭痛くなるのに、全然学習しないじゃん。少しは学習してほしいんだけど?」
怒りすぎて、私のスペイン語がめちゃくちゃの噛み噛みになってきたので、ここから先はビクトルにバトンタッチ。
ビクトルは、私がエクトルに言いたかったことを察知してくれていた。
でも、ビクトルもまた、怒りが頂点に達していた。
「お前が頭痛になる理由は3つ!ひとーつ!ゲームやらパソコンやらのやり過ぎ!ふたーつ!夜遅くまで起きてて、早起きするから睡眠不足!みーっつ!それからお前の性格だ!すぐに怒って目上の人に生意気な口を利くな!!マックスはパパの代わりなんだから、ちゃんと言うことを聞け!!お前はバカか?バカじゃないだろう?だったら学習しろ!頭が痛くならないようにどうしたらいいか自分で考えろ!!」
久々にビクトルの雷が落ちた。
頭痛いのに、エクトルごめんよと、ちょっとだけ思った。
ところで、先週の平日、私とビクトルは、エクトルを小児科へ連れて行った。
シュエに「父親の責任として、エクトルを病院に連れて行け!」と言われたのを、一刻も早く黙らせたかったし、私自身も、あの、公園での事故以来少し心配だったから、不安材料を少しでも取り除きたかった。
小児科の医者には、私とビクトルが再三2人で話していたこととまったく同じようなことを言われて、診察はあっけなく終了した。
熱も吐き気もなく、連日続くようでもなければ、睡眠不足、ゲームやらパソコンの類のやりすぎ。
両親が離婚していて、生活習慣が変わるのであれば、生活の変化に対応できないストレスの可能性。
以上!
ビクトルは、「なーにが公園の事故のせいだ!バカバカしくてメールする気にもならん!」と言って、医者からの診断結果をアーロンとエクトルに伝え、週末、シュエに言うように指示した。
その甲斐あってか、今回ばかりはエクトルにゲームを控えさせ、金曜の夜については早めに寝かせたようだ。
しかし、それだけだ。
継父に対して生意気な口を利かせ、怒らせるだけ怒らせて、思う存分頭に血を上らせて、「ママと過ごせる最後の夜だから♪」と、日付が変わる時間帯まで子供を外に連れ回す…。
何も食事に行くな、外出するなとは言わないけども、今生の別れじゃあるまいし、自身も先週日曜日の、あのエクトルの苦しむ姿を見たのだし、毎週頭痛が起きてることも薄々わかってるのだから、少しは気にかけてくれてもいいんじゃない?
挙句の果てにだ。
実は、月曜日の夕方、エクトルが頭痛で昼寝をしている頃、シュエがアーロン宛てに、我が家に電話をしてきた。
「ママ、何だって?明日出発するから、お別れの挨拶?」とアーロンに聞くと、「あぁ、それもあったけど、ゲームソフトの話。」と答えた。
なんでも、アーロンが欲しいと話した新しいゲームソフトの名前を忘れてしまい、「欲しかったゲームソフト、何て名前だったっけ?」という内容だったそうだ。
しょーもな!と、思わずのけぞった。
「で、エクトルのことは?頭痛起きてない?とか何か聞いてた?」と聞くと、「なーんも聞かれなかった。」と、アーロンは言った。
「え?!だって、今日の頭痛は知らないにしてもさー、先週の日曜日、エクトルがあんなに苦しんでるとこ見たんだし、病院に行ったことも知ってるんでしょう?じゃあ、普通心配して聞かない?」と私が言うと、アーロンは「ぜーんぜん聞かれなかった。」と繰り返した。
フットサルの新しいスニーカーを買い与えたこと、アーロンに新しいゲームソフトを買い与えること、これが、シュエのいつものやり方だ。
子供たちが喜ぶ“モノ”で、子供たちのご機嫌を取り、1ヶ月留守にすることの償いは終了。
あとはサヨナラだ。
火曜日の今日、週末の睡眠不足を解消するほどガッツリ寝たエクトルは、元気すぎるほど元気だった。
私が夕飯を作っていると、宿題も30分読書も終えて暇をしていたエクトルが、私にへばり付いていた。
「イースターになったらさー、朝ご飯にパンケーキ作ってくれるー?」と言うので、「あれー?それじゃあ結局、イースター前の祝日休暇は、アンタたちマックスと過ごすの?」と聞いてみると、エクトルは「うん。そうだよ。」と答えた。
「マックスとだけで過ごせるから、僕ちょっとホッとしてるんだー。」
何気なく、エクトルから爆弾発言が飛び出した。
あんなにママ大好きっ子だったのに、ママがいなくてホッとしてるって、かなりの重大発言である。
つい先ほど、この話をビクトルにもしたのだが、ビクトルもさすがにエクトルのこの発言には驚いていた。
「え?なんで?ママがいない方がいいの?」と、恐る恐るエクトルに聞いてみた。
「うん。その方がいい。だって、ママいーっつも怒ってて、怒るとずーっと叫んでるから。」
エクトルの頭痛の原因が、また1つ解明された瞬間だと思った。
シュエは今日、中国へ向けて旅立った。
■本記事のタイトルは、映画「ジョルスン再び歌う」(1951年公開、アメリカ)をモジって使わせていただきました。
記事の内容と映画は、一切関係ありません。