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梅子のスペイン暇つぶし劇場

毒を吐きますので、ご気分の優れない方はご来場をご遠慮ください。

ビクトルの友人達

夫ビクトルの、友人との付き合い方は、“狭く・深く”だ。

私もそうだ。

ま、つまり、2人とも友人は少ないということだ。

 

そんな、数少ないビクトルの友人の中に、小学校時代からの幼馴染みグループがある。

私が彼らに知り合ったのは、結婚前の、私がまだ旅行でスペインを訪れている頃からだが、その時からすでに、彼らは快く私を歓迎してくれた。

私自身の友人は、スペインではまだほとんどいないけれど、彼らは「僕たちはビクトルと古い付き合いだけど、もちろん梅子とも友達だよ。」と言ってくれる。

ビクトルと私が、前妻シュエに悩まされる時もまた、皆が皆、全力で励まし助けてくれる。

ビクトルは本当に友達に恵まれてるなぁと、思わず羨ましくなるほど、皆、良い人だ。

 

だが、この素晴らしい友人関係に、今、小さな小さな“ヒビ”が入ろうとしている。

 

「こんなの、大したことじゃないよ。」と、ビクトルは笑うが、今日は、その小さな小さな“ヒビ”について、大袈裟にクローズアップして書いていこうと思う。

 

問題が起きているのは、このグループ(ビクトル含め7人)の中の3人、A、B、Cと、ビクトルの関係だ。

 

Aは、以前からビクトルとも個人的に親しく、グループの中でも我が家の事情をもっとも良く知っている。

私がまだスペインに移り住む前は、ビクトルの子供たちのこともよく気にかけてくれていた。

私がスペインに来てからも、週末を利用した小旅行に誘ってくれたり、子供たちを連れて車で遠出したり、その付き合いは変わらない。

ひょうきんな性格で、よく気の利く人なのだが、強いて1つ難を言えば、口が軽い。

特に、前妻シュエと我が家の問題とか、あまり大袈裟にしたくないようなディープな話をすると、たちまちグループ全員に知れ渡ってしまう…という感じだ。

また、彼は、友人Bと親友関係で、Bのことをものすごく尊敬しているふしがある。

 

Bは、ビクトル曰く、「若い頃までは、とても親しい関係だった。」そうだ。

しかし、ある時を境に、Bとビクトルの関係はぎこちなく、よそよそしい関係になってしまったらしい。

ちなみに、この2人の関係の変化を、他のメンバーは誰も知らない。

グループで食事会があると、Bは(奥さんもグループと仲良しなのでたまに顔を出す。)、とても気さくに挨拶をしてくれるが、その後は特に話すでもなく、終始スマホに夢中だ。

「久々に顔合わせるんだから、スマホいじりは控えたらいいのに…。」と、他のメンバーもちょくちょく文句を言うが、その時はいつも、Bを大尊敬するAが「まぁまぁ、彼も忙しいんだよ。」と、フォローに回る。

Bは出世して、今、州全体の、主に映画の興行関係を取り仕切る役職に就いているが、最近、市政が政権交代したので、近いうち、彼はこの役職を辞するだろう。

彼の役職は、市政と密接に絡んでいる。

 

Cは、そもそも、ビクトルたちの小学校出身者ではなかった。

幼少の頃、AがCに知り合って友達になり、その縁でこのグループのメンバーとも付き合いが続いている。

Cは敬虔なカトリッククリスチャンで、性格は、一言で言えば、“ピュア”。

我が家の前妻シュエとの問題のような、人間のドロドロした闇の部分みたいなものとは、到底無縁のような人なので、たまにビクトルが前妻との問題を彼に愚痴っているのを見ると、こっちが恥ずかしくなってしまうほどだ。

 

さて、このAとBとCだが、3人はとても仲が良い。

ほぼ毎週末、3人で映画を観に出かけたり、食事をしたり、朝のジョギングをしている。

ほぼ毎年、国外旅行も一緒に行っている。

 

今日お話しする、“小さな小さなヒビ”とは、この3人の関係にビクトルが割り込んだかたちで入ったヒビのことだ。

 

Cと我が家は、当初何の共通点も絡みもなかったが、彼が役者業をしていることから、ビクトルが自身の自主製作映画に出演を依頼したのをきっかけに、最近になって急激に我が家との関係が密になってきた。

 

去年、ビクトルが次の自主製作映画のプロジェクトを立ち上げた。

ひょんなことから、映画界のとある有名人とコンタクトを取ることができ、協力すると言ってくれた。

それがきっかけで、今までのようなアマチュアな手法ではなく、少しプロフェッショナルな方法で映画を作ろうということになった。

Cに相談すると、Cはその有名人の名前を聞いてたいそう興奮し、「ぜひ、キャストとして1役やらせてほしい。」と名乗り出た。

役者業だけでなく、ビクトルのパートナーとしても、このプロジェクトに協力してくれることになった。

 

プロジェクトが少しプロっぽくなるということは、技術的にも本格的になるので、人を雇うことになるし、うまくいけばビジネスにもつながる。

ということは、お金や法律なんかが絡んでくる話になる。

そこで、Cは早速、Bにアドバイスを求めた。

Bは州の映画興行関係を取り仕切る身分なので、こういう話には詳しい。

友人だし、何かアドバイスをしてくれるはずだと思ったのだ。

 

ある日、ビクトルとCが、プライベートではなく、一ビジネスの話として、Bの就業時間後にアポイントを取り、相談に行った。

しかし、Bは約束の時間にだいぶ遅れてやって来て、ビクトルとCが説明している間も終始スマホから目を放さず、やっと口を開いたかと思えば、「それは無理」、「それは不可能」、「それじゃダメだ」と、ネガティブな発言をするばかりだった。

「どこがどうダメなんだ?」と聞いても、曖昧で遠回しな話ばかりされて、短い面会時間は、あっという間に終わった。

「あいつ、どうしちゃったんだ?何だ、あの態度は!」と、Cは憤慨したが、ビクトルはなんとなく予想はしていたそうで、あまり驚かなかったらしい。

 

その後も、Cは、個人的にBと会う度に、それとなくプロジェクトのことについてBにアドバイスを求めたらしいのだが、この話になるとBは口を閉ざし、「どうしてBは何も教えてくれないんだろう。」と、ビクトルに会う度、Cはこぼした。

 

このプロジェクトを立ち上げてから、ビクトルとCは、“打ち合わせ”と称して、週1で会うようになった。

Cと頻繁に会うようになったもんだから、打ち合わせをしている間に、CのスマホにAやBから週末の誘いのメッセージが届くのや、直接電話がかかってくるような場面に、ビクトルと私は時々出くわした。

Cがビクトルに会っていることは、何ら隠すことでもないので、Cはいつも「今、ビクトルと梅子といるんだよ。」と、正直に彼らに話していた。

 

そんな折、グループ全員で集まる食事会があって、私もビクトルも参加した。

食事の席では、最近ビクトルとCが頻繁に会っているのをうっすら知っているAが、ビクトルとCが何をしているのか、やたらと聞いてきた。

ビクトルもCも、あまり大袈裟にはしたくなかったので、有名人が絡んでいることは伏せて、プロジェクトの話をした。

Aは、「そういうことなら、Bに聞けばいい!な、B?」と言い出した。

実は先日、Aがアマチュアのショートアニメ映画をプロデュースしたのだが、その時Bにたくさんアドバイスをもらい撮影が成功したこと、これまたBの勧めで映画をコンテストに出品したことを話しだした。

ビクトルもCも、そして及ばずながら私も、何も言葉がなかった。

AがあまりにもBに「ビクトルたちにも何かアドバイスを!」と言うもんだから、Bは仕方なさそうに口を開いたが、出てくる言葉は、やれなんとかいう申請をしなければならないだの、やれそれは難しいだの、お金がかかるが詳細は忘れただの、暗に「やめろ」と言ってるようなもんだった。

 

つい最近の先々週も、実はグループでの食事会があったのだが、この時は、もう誰も、ビクトルの映画製作の話はしなかった。

 

そして、その翌週の週末、つい先週の話だが、とあるホラー映画が公開になったので、ビクトルはCを映画に誘った。

というのも、その映画で吹替えを担当した役者の1人が、ビクトルの自主製作映画にキャストとして出演の依頼中の人だったので、声や話し方を、Cと一緒にチェックしたかったのだ。

 

ビクトルが「映画を観に行かないか。」とCを誘った時、CはAとBにも声をかけた。

Cにとっては、週末彼らと会うのはいつものことだったし、「たまにはビクトルや梅子も一緒なのもいいだろう?」という気持ちだった。

しかし、AとBは、「その映画には興味がないし、その映画館は遠い。」とか、「その日は別の街にいるから、上映時間に間に合うかわからない。」とか言う理由で、誰も良い返事をくれなかった。

「映画は観なくてもいいから、その後食事ぐらいは行けるだろう?」という誘いも、のらりくらりかわされてしまった。

 

当日、映画を観終わって、私とビクトルとCが、レストランで食事をしていると、CのスマホにAからメッセージが届いた。

「今、Bと市庁舎前の花火大会を見ているよ!」という内容だった。

市庁舎をバックに、見事な打ち上げ花火の写真付きだった。

Cは、「俺たちの誘いを断っておいて、なんてヤツらだ。」と再び憤慨していた。

ビクトルは、その時は何も言わなかったけど、Cと別れた後に、「僕たちのレストラン、市庁舎からだって近いのに!僕がCを横取りしたみたいで、きっとあいつら気に入らないんだ。」と怒りだした。

 

幼馴染みの仲良しグループとはいえ、突然ビクトルとCが急接近したことをおもしろくない気持ちは、私もわからなくはない。

ただ、ちょっとガッカリしたのは、うやむやな理由で誘いを断っておいて、おそらくまだCとビクトルが一緒にいる時間帯だろうと容易に想像できる時間に、「こちらはこちらで楽しんでまーす♪」というようなメールを送ってよこす、その幼稚さにガッカリした。

誘いを断った以上は、その理由がウソだろうと、どこで楽しもうとかまわないけれど、私たちには沈黙を貫き通してほしかった。

打ち上げ花火が見事で、どうしてもCにメールを送りたかったのなら、せめてビクトルとCが別れた後であろう時間帯を見計らってとか、そうでなければ翌日にでも送ればいいのにと思った。

 

私がそうビクトルに話すと、「梅子の怒りの目線って、僕と違うから新鮮!」と、妙に感心された。

 

おいっ!感心してる場合か!

 

 

■本記事のタイトルは、映画「エディ・コイルの友人達」(1973年公開、アメリカ)をモジって使わせていただきました。
記事の内容と映画は、一切関係ありません。