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梅子のスペイン暇つぶし劇場

毒を吐きますので、ご気分の優れない方はご来場をご遠慮ください。

罪に立たされる女 前編

【子どものこと】

とうとうやっちまった。

 

しばらくヘマすることなくやってきたのに、しばらくヘマしなかっただけあって、私の“ヘマ・ポイント”は、だいぶ貯まっていたらしい。

貧乏人の性か、そういうのだってチマチマ使っていきたいのに、「こういうのはドーンと一気に使っちゃいなさいよ!」とばかりに、超ド級のヘマをやらかした。

今日はそんな話。

 

我が家の子供たちが通う学校の、通りを挟んですぐ近くに、最近公園ができた。

学校が終わると、多くの子供たちは、迎えに来た親と共にその公園に直行。

1時間かそこら、その公園で遊んでいる。

学校帰りだから、皆、制服や運動着のままで遊ぶもんで、その公園は毎日放課後になると、もう1つの学校の施設かと見まごうばかりの光景になる。

 

下の子エクトルは、たくさんのクラスメートがその公園で遊んでいることを知っているので、毎日のように「ねぇ、公園に行ってもいい?」と、私や夫のビクトルに聞いた。

 

公園には、エクトル1人だけで行かせるわけにはいかない。

必ずビクトルか、私が付いていなければならない。

そしてまた、公園には付き添いの親たちも大勢いる。

学校が終わるのが、夕方の5時とか5時半だから、その後公園で小1時間過ごすと、帰宅するのは6時とか、下手すれば7時近くになる。

そんなに遅くまでこんなにたくさんのママやパパが家を空けていて、夕飯の支度はいつするんだろう。

子供たちは宿題もあるし、ご飯あげてお風呂も入れて…となると、かなり時間がかかる。

子供たちはいつも何時にベッドに入るんだろう(ウチの子たちは10時。)と、公園で佇んだりママ友たちとおしゃべりしてる親たちを見ると、いつも疑問に思う。

 

ビクトルは、親たちの輪に入るのが大嫌いだ。

私は私で、人見知りはするけども、そういう輪に入るのは、必要なのであればかまわない。

ただ問題は、片言のスペイン語しか話せないので、他の親たちと上手くコミュニケーションが取れないことだ。

私たち夫婦は、いわゆる“社交性”がなかった。

なので、エクトルの毎日の「ねえ、公園に行ってもいい?」の質問には、いつも「ダメ」と答えていた。

 

でも、いつも「ダメ」って言うのも、かわいそうだなとは思っていた。

だから、夕飯の献立が簡単な物の日とか、洗濯をしなくていい日とか、私が午後、比較的手が空いている時は、「私が連れて行くよ」と言って、極々たまーにだけど、エクトルを公園に連れて行っていた。

 

今週の月曜日、エクトルがまた「公園に行きたい」と言い出した。

月曜と火曜は、ビクトルが午後、外出する予定があったので、この2日間は連れて行けない。

ビクトルが小声で私に相談を求めた。

私は「う~ん」と、洗濯のこととか夕飯の献立をざっと考えて、「水曜日だったらいいよ。」と言った。

そしてビクトルがエクトルに言った。

「今日と明日はダメだ。でもお前が良い子だったら、水曜日に梅子が連れて行くよ。」

 

月曜と火曜、エクトルは良い子だった。

宿題もきちんと済ませ、日課にさせている30分読書も、文句も言わずにちゃんとこなした。

私に反抗したり、兄のアーロンと喧嘩もしなかった。

 

水曜日のお迎えの時、エクトルはワクワク顔で私たちの元へ駆けてきて、「公園に行ってもいい?」と聞いた。

ビクトルも私も「いいよ!」と言った。

「6:15になったら、帰って来るんだぞ。梅子の言うことちゃんと聞いて、梅子の見える所で遊びなさい。」と、ビクトルがエクトルに言い聞かせ、彼のバックパックを持って帰って行った。

「じゃあねー!パパ!」とエクトルはビクトルを見送るやいなや、公園に向かっているクラスメートの姿を発見して、「おーい!今日は僕も公園に行くよー!」と走り出した。

私は「コラ!慌てるな!信号あるんだからストーーップ!」と言って、彼を追いかける。

 

エクトル、こんなに嬉しいんだなぁ。

やっぱりたまには連れてきてやらないとなぁ。

 

目の前に見えている公園に行きたくて行きたくてしょうがないエクトルの手を掴んで、信号が青になるのを待ちながら、私はそんなふうに考えていた。

 

公園に着くと、早速エクトルは友達の所へダッシュで向かい、私は空いているベンチを見つけて陣取り、エクトルが脱ぎ捨てて行ったジャンパーを膝に掛け、持ってきたkindleを取り出した。

最近読み始めた、片桐はいりの「わたしのマトカ」がおもしろくて、早く続きを読みたかった。

 

ふとした時にエクトルの姿を目で追いかけ、「大丈夫。いるな。」と確認しながら、私は読書にふけった。

目の前の長いベンチには、知っているけど話したことはない、エクトルのクラスメートの親たちが座って談笑していた。

私の座る長いベンチには、遠くの端に知らない子供の知らないママが1人座ってスマホをいじっているきりで、他には誰もいなかった。

1度だけ、以前話したことのあるエクトルのクラスメートのママが、1歳ぐらいの下の子を連れて私のそばに来たので、挨拶して「こんなに子供たちがいて、まるで学校みたいねー!」「そうですねー。」と話して去って行った。

私の貧相な“社交”は、それっきりだった。

 

エクトルは鬼ごっこをしているようだった。

あちこち走り回って、1人だけビッショリ汗をかいていた。

 

ふと時計を見ると、6:05。

そろそろ帰ろうか。

いや、でも今エクトルを呼んだら、きっと「あと10分あるじゃん!!」って怒るだろうな。

よしよし、あと10分遊ばせてやろう。

 

そう思って、私はまた読書に戻った。

 

「エクトルのママー!エクトルのママー!」という、子供たちの叫び声と、エクトルのか弱い「梅…、梅…」という声が聞こえるまで。